第73話祐は佃へ

祐はブラブラ歩きを続け、佃に入った。

「義理かな」と思ったので、佃住吉に参拝。

「佃祭りにも来たいです」とお願いをしたりする。

面積的には、それほど大きな神社ではないけれど、江戸時代の初め頃から、というので約400年もの歴史がある神社。


祐は、落語の「佃祭り」を思った。


「あれは、主人公が佃祭りに来て、帰る時に、かつて身投げをしようとして助けた佃島の女性に引き留められて、帰りの船に乗れず、(その後、帰りの船は人を乗せ過ぎて沈没してしまった)、結果として、九死に一生を得る」

「主人公の家では、佃祭りの帰り船が沈没して、多くの人が隅田川で溺れ死んだことから、もう死んだものと早合点」

「さて、主人公が、家に戻ると、自分の葬式をやっていて驚き・・・との滑稽噺か、人情噺か」


ただ、今の時代、そんな落語の話をしたところで、若い人はほとんど知らない。


「みんなアニメとテレビとタレントの話ばかりだ」

「こんな話をしても、誰も知らない」

「年より臭いとかで、馬鹿にされるのが目に見えている」

「滑稽噺なら、まだ可能性はあるかも」

「でも、人情噺なんて、まどろこっしくて、聞く人も、知る人もいない」


祐は、そう思うと寂しさを感じるけれど、口に出しても仕方がない。


佃住吉から歩いて一番近い店で、佃煮を買った。

「マグロの角煮」「アサリ」にした。

やはり出身が静岡県、家も海に近い。

「海のものを食べないと、元気が出ないかも」と考えた。


「でも、この佃煮の味は、純子さんにはキツイかな」

「奈良では、こんなに濃い味のものは少ないから」

何故か、菊池真由美については、何も考えない。


佃煮を鞄に入れて少し歩き、佃大橋にのぼった。

やはり、空は大きい。

再び佃を見ると、すごく高いビルが並び、その底辺のような場所に、佃煮屋が三軒。

「不思議な感じ、現代と江戸が共存か」


「でも、隅田川からの風もいい風だ」

「スッとする」


その後は、橋を渡り終え、築地に。

本願寺を少し見て、メトロに乗って、千歳烏山に帰った。


アパートまでは、普通に歩いた。

アパートの前で、足が止まった。

菊池真由美が、手を振っている。

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