第66話源氏研究の大家秋山先生との再会

「秋山先生!」

祐は、老紳士に、深く頭を下げた。

「秋山先生」は天皇家にもご進講している源氏物語研究の大家。

また、母彰子の恩師。

祐も母彰子のお供で、杉並のご自宅にも伺ったことがある。


秋山は祐を見て、相好を崩す。

「後ろ姿でそうかなとね」

「一昨年の夏以来かな」

「今年から、大学生かな」


祐も、珍しく自然な笑顔になる。

「ありがとうございます」

「おかげさまで、無事に合格しました」


祐が大学名と学部を伝えると、秋山は、うれしそうな顔。

「祐君の大学にも、私の弟子がいる」

「源氏の講義は受けるの?」


祐は、また自然な笑顔。

「まだ、入学式も済ませていなくて」

「源氏は・・・受ける予定ですが」


秋山は笑って、祐の背中を軽く叩く。

「あはは、そうか、それはまだか」


祐が頷くと、「一緒に歩こう」と誘いをかける。

祐も、拒む理由がないので、一緒に歩き出す。


二人は、「光源氏が、薫を抱く」場面で、自然に立ち止まった。


秋山

「これは、永遠のテーマかな」

「そうですね、かなり深い」

「でも、このテーマがあるから、源氏は読み継がれて来たとも」

秋山

「ほお・・・そう考えるか・・・」

「まあ・・それがなければ、単なる貴種の物語になるね」

「何故、紫式部が、薫というキャラを考えだしたのか」

「モデルがいたのかな、とか」

「あの時代の、宮中の男女は・・・とか」

「先生を前に、恥ずかしいですが」

秋山

「うん、恥ずかしくないさ」

「源氏を研究する人、皆、それで悩む」


秋山は話題を変えた。

「祐君の住まいはどこに?」

「千歳烏山ですが・・・」

秋山は、また、うれしそうな顔。

「私の家と近い、久我山だから、歩いても来られる」

「遊びに来なさい」

「はい、わかりました」


秋山は、そこで、少し考えるような顔。

「祐君、もし、アルバイトを探すなら」

「はい・・・まだ何も考えていないのですが」


秋山は真面目な顔。

「仕事を手伝ってはくれないか」

「詳しくは、家で言うよ」

祐は、断れなかった。

いや、断る理由が、何も見つからなかった。

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