第65話祐は上野へ

「千歳烏山から、岩本町まで行って、上野か」

京王線に乗ってから、祐は路線検索。

相変わらず、この作業には慣れていない。

ただ、「迷わない程度に着けばいい」と考えているのも事実。


上野駅には、約40分で着いた。

あちこちに案内表示があるから、迷わない。

駅を出ると、東京文化会館。

「かつてはクラシックの殿堂だったけれど」


「もちろん、文化会館は、今でもクラシックの有名ホールではあるけれど、都内の各所に音響の、より優れたホールができたので、少々、地位も変わっている」

東京に出て来る前に、音楽ファンの父から、そんな話を聞いたことを思い出す。


西洋美術館を右手に見て、「シャガール展?後で寄るかな」と思いながら、上野公園を国立博物館の方向に歩く。


「桜が・・・少し散り始めたか」

髪の毛や肩に、桜の花びらがかかる。

祐は、そのまま歩く。

桜が多過ぎて、いちいち、払ってはいられない。


国立博物館の厳めしい建物が見えて来た。

看板が立っている。


「源氏物語と平安貴族の世界」


祐は、クスッと笑った。

「母さんの専門分野か」

「万葉集は、二次的なものって言っていたから」


道路を渡り、受付でチケットを買い、国立博物館の敷地に入る。

「広いなあ・・・贅沢かも」

と思いながらも、やはり日本を代表する「国立博物館」、ケチケチするべきではないと思う。


少し歩いて「源氏物語と平安貴族の世界」が展示されている「平成館」に到着。

行列に5分ぐらい並び、会場に入った。


展示会場の入り口で、展示物を説明するヘッドフォンの案内があったけれど、スルーした。

「どうでもいいや、そんなの」

「そもそも暇つぶし」


そんなことを思いながら、入り口の大きな説明文を読んでいると、後ろから声をかけられた。


「もしかして・・・あなたは・・・森田先生の息子さんかな?」


祐が振り返ると、見覚えがある老紳士が立っている。


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