第29話祐の悪い癖 

祐は、疲れ切っていた。

悪い癖が出たと、思う。

「人が多い街を歩くと、時々、頭痛と吐き気が始まる」

「そして、なかなか、治らない」



美咲と、本当は新お茶の水で別れるべきではないと思っていた。(祐自身、新お茶の水から千歳烏山に、どうやって帰るのか、わかってはいなかったけれど)

しかし、疲れ(特に頭痛と吐き気が限界だった)は、そんな配慮を無効にした。

だから、美咲と別れて、お茶の水駅前の薬局に直行、飛び込む。(その時点では眩暈も始まっていた)


「お客様、風邪かもしれません」

薬局の人は、親切にも熱まで測ってくれた。

「37度9分です」

「すぐに効く液状の薬でよろしいでしょうか」


祐は、「はい、それで」と、おすすめ通りの薬を飲んだ。(とにかく一分でも早く千歳烏山のアパートに帰りたい)


しかし、薬を飲んでも、直後に効くわけではない。

祐は、少しふらつきながら、駿河台の坂をおりた。

ようやく靖国通りに出たけれど、午前中とは違い、神保町の駅が遠く感じる。

また、3月下旬の夕方の風は、まだ冷たく、祐の身体をさらに震わせる。


ようやく神保町駅に着き、都営新宿線に乗り込んだ頃、薬は効きはじめた。

運よく座れたので、スマホを見ると、美咲からのメッセージ。

「今日は本当に楽しかったです、ありがとうございました!」

「今度は、私が祐さんをリードしますね」

「千歳烏山のアパートまでお迎えします」

ハートとケーキのスタンプが洪水のようになっている。


祐は、やはりシンプルに返す。

「ありがとうございました、また、その折にはよろしくお願いします」


即座に美咲から「よろしくお願いします!」と花束のスタンプが来たけれど、祐はスマホをバッグに放り込む。

「・・・もう・・・悪いけれど・・・今日は美咲ちゃんは無理」


それでも、バッグの中からのスマホの着信音には気づく。

「どうせ恵美ちゃん・・・いいや・・・無理」

「メッセ返せば、根掘り葉掘りになる」

「アパートに戻ってから・・・にする」

「電車が混んでいたって言えばいい」


電車は、ようやく千歳烏山に着いた。

すでに暗くなっている。

「夕飯は・・・」

「外食する気力も体力もない」

「その前に、食欲が無い」


外食を諦めた祐は、トボトボと歩き、アパートの前に。

そこで「あれ?」と気がついた。


純子がドアから出てきて、手招きをしている。


祐自身、不思議だった。

純子の顔を見た途端、緊張していた心が解け、ホロッとしているのだから。


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