第7話純子は祐の部屋に(1)

私は、アパートに戻る道を歩きながら、ドキドキが全く収まらない。

「祐君の部屋に入れる」

「どんな感じかな・・・」

「私、押し掛け?」

母が言っていたことを思い出した。

「純子は、優柔不断だけどね、時々暴発する」

でも、そんなことは気にしてはいられない。

とにかく祐君の部屋に入りたいし、一緒の時間を過ごしたくて仕方がないのだから。


アパートに着いて、祐君も少し赤い顔。

「まだ散らかっていますが」

とドアを開ける。

私は、ここで胸がドキン。

それでも淑女のたしなみ、靴はキチンと揃えて、祐君の部屋に入る。


でも・・・「散らかっている」と言う程ではない。

本がたくさん積んであるけれど、この状態なら、私の部屋の方が乱雑(恥ずかしい)


少し見とれていると祐君は「あ・・・ごめんなさい・・・珈琲淹れます」とやさしい声。

そして、珈琲豆をガリガリと挽きだしている。

・・・いい香り、なんて本格的なんだ、インスタントか缶コーヒーのズボラな私とは違う。


豆を挽き終えた祐君は、フレンチプレスで珈琲を淹れる。

(その動きも実に絵になる、お洒落だ)


祐君は花柄のカップに珈琲を注ぐいで(その動きも優雅)で私の前に置く。

私は、また恥ずかしい程顔が赤い。

出来る限りの猫なで声で「いただきます」と、珈琲を口に含む。


そして、驚いた。

「うわ・・・祐君!美味しい!本当に!どうしてこんなに?」

「すごくまろやかで、甘味とコク・・・こんな珈琲飲んだことがない」


祐君は、私の反応に恥ずかしそうな顔。

「挽き立てで、フレンチプレスだからでしょうか、豆はコロンビアです」


もう一口珈琲を飲んだ私は、ますます美味しく感じた。

そして思った。

これから珈琲を飲みたい時は、祐君の部屋に押し掛けるしかない・・・もう今までの珈琲は飲めない。


・・・でも、まだ出会ったばかり、恥ずかしくてそんなことは言えない。


私は顔を赤らめて、積み上げられた祐君の本に視線を動かした。

そして、また驚いた。

「え?祐君の本って・・・へえ・・・」


私は祐君の本から、目が離せない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る