隣の祐君

舞夢

第1話 祐君との出会い

私、吉村純子は、今日は朝から本当にウキウキしている。

天気がいいから?そんな陳腐な理由からではない。

アパートの隣に越して来た「森田祐君」が、朝早くあいさつに来てくれた・・・それからなのだ。

もう・・・色白で美肌で「美少年」と言うより、「美少女、妹風」キャラの顔。

「静岡から越して来ました、何かとよろしくお願いします」などと、目をクリクリさせて、可愛い声で・・・。

ついつい、私も気張ってしまった。

「ああ・・・私は奈良から・・・実家は和菓子屋さん」

と聞かれてもいないことを言う始末。

・・・それでも祐君は、可愛い顔で笑ってくれた。

「いつか食べたいですね、和菓子大好きです」

私は、この時、足がガクガクするほどの、ハイテンション。

今までの一浪時代、予備校の中ではムサ苦しい男と、どうでもいいウザイ女に囲まれていたのだから。


「はい!親に言って取り寄せます!」

祐君は、また、「ふんわり」と笑うし、「はぁい」なん可愛い顔で自分の部屋に戻ってしまったけれど。


・・・それだけなんだ・・・けれど・・・

・・・・でも、ウキウキがおさまらない私は実家の母に電話をかけた。

「ねえ、母さん!お願い!」


母は呆れた声。

「何なの?またお金?」


私は、少し大きな声に変わる。

「違うの!隣に祐君ってメチャ可愛い男の子が越して来たの!」


母は、ますます呆れた声。

「お願いが、メチャ可愛い男の子が越して来たの?なの?」


私も、これにはまずいと思った。

ようやく、「本題」を言う。

「違うの、そのメチャ可愛い祐君は、和菓子が好きなんだって!」

「だからさ・・・ね・・・?」


母は、笑い声に変わった。

「あはは・・・珍しい・・・純子がそんなこと言うなんて」

「よほどの子?顔見たいねえ・・・」

「うん、父さんには内緒で送るよ」

「・・・でね・・・その祐君の写真も、お願いね」


私はこの時、母のアイドル好きを思い出した。

少々、「失敗した」と思ったけれど、それ以上に祐君の口に「私の家のお菓子」が入るのを見たい・・・そんなことで、ウキウキは全く収まらないのである。

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