病弱召喚者の保護者日誌ー前衛だと思っていたんだがー

中谷 獏天

序章

 ?月?日



 自分の声が囁かれたのは数ヶ月前。

 ニャルラトホテプの名を、ヨグの眷属が呟いた。


 遠く遠く、ドリームランドの細い糸を伝って、呟かれた世界に降り立ったのだが。


 マジ超平和。

 しかも大罪が慈善活動って、何ココ超楽しそうなんですけど。


 しかも黒い仔山羊の気配もするし。


 うん、行ってみよう。


 他の世界では違う国名、中つ国の紫禁城に黒い仔山羊は居た。


 こんな地方に紫禁城って。


 しかも嬉しそうに草食ってやがる。


《ふぐんむむふふ》

『不穏な気配って、ニャルだよ、分かるだろ』


《ココ、居ない筈》

『来ちゃった☆』


《悪い事するか?》

『時と事情によるかなぁ』


《あらそう、この私、女媧と神々総出でお手合わせするわ》


『いや、しないですしないです、良い子にしますぅ』


 何か、クトゥルフは先ず〆るみたいな感じだったので、逃げた。

 逃げ足は凄いんだ俺☆


 でも、ココ何処だろう。


 真っ白だし、平衡感覚も曖昧。


 呼吸は、出来るけど、声は出ない。


 あれ、手も無いし。


 俺って。




「アンタも迷子か?」

『いや、実はココの管理人なんだ、宜しくね☆』


「おう、宜しく頼む。李 武光だ」


 体格の良い人間が言うには、帰る途中で迷ったらしい。

 さっきの、あの世界から。


 そしてどうやらあの世界には、召喚者(転移者)と転生者が居るらしい。

 そしてそんな者も、魔法も何も無い世界に帰る途中だと。


 馬鹿じゃないだろうか、勿体無い。


『勿体無い、あんなに面白い世界なのに』

「すまんが、婚約者が居るんでな」


 何かを隠してる匂い。


『それだけ、かい?』


「実は、子供も生まれる予定なんだ」

『成程ね!うん、是非にも帰らないとだ、ただ、まだ君にはしないといけない事が、少しだけあるんだ』


「そうなのか?」

『だからココに留まったままなんだよ、このやり直せる空間に』


 琴線に触れた。

 後悔があるのは確実、後はそれを引っ張り出して。


「実は、気掛かりが残ってたんだ。助かる」


 乗ったぁぁああああ!

 楽しいなぁ、楽しいなぁ。


『分かるよ、大事な子なんだね』

「あぁ、妹みたいなものでな。向こうへ残ったんだ」


『なら、先ずはシミュレートしてみようじゃないか。もっと何とかすればどうにかなったか、何をしてもどうにもならなかったか。どうだい?』

「あぁ、頼む」


 っしゃああああ!

 楽しい事が始まるよー!




『で、タケちゃんRTAが始まるんだけどね』


 ん?

 なんだろ、口が勝手に。


「RTAとはなんだ?」

『リアルタイムアタック。要点と効率を見極め、先ずはいかに早く攻略するか。どう攻略すれば良いかが分かれば、フォローも出来るってもんじゃ無い?』


 これ、俺の思考や知識じゃ無い。


「うむ、確かにそうかも知れんな」


 納得しちゃったよ。


『じゃあ、先ずは最初からやり直してみようか☆じゃ、行ってらっしゃーい!』


「おーぅ」


『はぁ、何コレ』


 蹲って暫く考えたけど、良く分からん。


 そして顔を上げるとデカいスクリーン。


 映画館か。


 映画館だ、3色ポップコーンに炭酸ジュースも有る。


 うん、誰かの空間だコレ。


 古き神々の悪戯なのか、古い映写機の回り始める音が鳴り出すと、何処かで4Kとか呼ばれてた鮮明な映像がスクリーンに映し出され始めた。


 俺、映画は大好き。






 タケちゃんRTA、開始。






 1月21日



 ロキに似た何者かの手引きで、再びこの世界に戻って来た。


 感覚は有る、そして記憶も有る。

 もう少ししたら、ハナがココへ来る筈だ。


 来た、この頃はまだムチムチなんだが。


「やぁ!李 武光だ」


「桜木花子です、従者のショナとミーシャ。神獣のカールラとクーロン。と、無害な魔王」


「宜しく!」

「宜しくどうぞです」


「そう硬くならないでくれ、俺は27だ」

「21です」


「うん、大差無いんだ、気後れしてくれるな。先ずは軽く説明を聞いても良いだろうか」


「えーっと、ココは異世界です」

「うん、何となくは感じていた。で、先ず俺は何処に行くべきなんだろうか」


 近くに居た人間に説明出来る者が居て助かった、崑崙山へ行くべきだと。

 だがその前に会議に出ろと。


 女従者の事もある、行くしか無いのだろう。


「体、大丈夫ですか?」

「問題無い、が、少しばかり付き合ってくれ」


 魔王に宮殿へ送って貰い、先ずは心得を吐かせ、女従者には一切関わらないと釘を差す。

 そして念の為に脱膣の症例を調べさせ、次はアヴァロンへ。


 そこからユグドラシルへ、エイルはハナを見て察したらしく、ありったけのエリクサーを持たせてくれた。

 それからしっかりと魔素を補給し、崑崙山へ。


「李さん、神話にお詳しいんですか?」

「ハナ、同志なんだから、もう少し気軽に呼んでくれないか?」


「李君」

「もっと」


「武光君」

「もう少し」


「…タケちゃん」

「よし!それが良い。俺は教師を目指していてな、神々の事は少しだけだ。それより、もっと肩の力を抜いてくれ、出来たら兄妹程度にだ、な?メイメイ


「妹?」

「そうだ、俺にはお兄ちゃんグーグ


「タケちゃんで、お兄ちゃんグーグ

「そうだ、ハナでメイメイだ」


 雑談が途切れた頃、やっと門が登場した。

 前と同じ様に名乗りを上げると、どうしても、ココは眠くなってしまうらしい。






 新しく来た、李 武光さん。

 年上でしかもタケちゃんかお兄ちゃんグーグと呼べと、そんなコミュニケーションモンスターが眠りに落ちた。


 急いで宮殿に戻ると、単なる魔素切れ。


 しかもこの魔素切れを予感していたのか、ユグドラシルと言う世界樹でエリクサーをゲットしちゃったし、しかも後で製造方法を教えてくれるって、エイルと言う名のヴァルキュリアさんが言ってたし。


 ワシが馴染むのが遅過ぎるんだろうか。

 何だろ、気持ち悪い。


「大丈夫ですか桜木さん」

「あ、低値だコレ」


 エリクサーの点滴をして貰い、やたら上手いエリクサーを飲むが。

 空腹感が凄い。


「食事の準備に時間が掛かるそうですし、いつ目覚めるか分かりませんし、ホテルに戻りませんか?」

「そうしときます」


 裏口で車椅子を借り、タケちゃんを乗せ移動させ、部屋のベッドへ寝かせた。


 貰った桃や仙薬を少し頂いて、自分も直ぐに眠った。

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