第4話
アレスはチャーリーとカーリーが握手しているのを見て、憂鬱そうな表情を浮かべた。
「カーリー様は兄上に見とれていらっしゃいますね」
「いえ、そんなことは有りませんわ」
カーリーは頬を染めて否定した。
「アレス、婚約者を虐めてはいけないよ」
チャーリーはそう言って、アレスに向かって首を横に振った。
「カーリー様、アレスは誤解を招くような発言も多いかもしれません。ですが、まっすぐで優しい弟です。よろしくお願いします」
カーリーはチャーリーの言葉を聞いて、微笑んだ。
「アレス様もチャーリー様も直接お話ししたのは初めてですから、少しずつわかり合えれば良いなと思っております」
チャーリーはホッとした様子で頷いた。
「そうですね。徐々に知り合うことが出来れば良いですね」
「兄上、そろそろベッドに戻られた方が良いのではありませんか?」
「そうだね、アレス。ありがとう」
アレスはチャーリーを支え、ベッドに移動するのを手伝った。
「カーリー様は、ときどきこちらにいらっしゃるのですか?」
アレスはベッドの中からカーリーに話しかけた。
「はい、そのつもりです」
カーリーが答えると、チャーリーはちょっと考えてから言った。
「それでは……もしよろしかったら、本を貸して頂けますか? 家にある本は大体読んでしまったので……」
チャーリーが遠慮がちに言うと、カーリーは笑って答えた。
「それくらいなら、容易いですわ。どんな本が読みたいのですか?」
カーリーの言葉に、チャーリーの表情が明るくなった。
「そうですね……童話でも神話でも、何でも構いません」
チャーリーはそう言って、本棚を見つめた。
「それなら……この本棚に無い、私の好きな本をお持ち致しますわ」
「ありがとうございます。楽しみです」
カーリーとチャーリーが楽しそうに話しているのを見て、アレスは苦笑した。
「どうやら私の婚約者は、兄上の方がお気に召したらしい」
アレスの言葉に、カーリーは傷ついた。
「そんなことおっしゃらないで下さい。私は皆様と仲良くなりたいと思っておりますわ」
「アレス、もうやきもちを焼いているのかい? 気が早いんじゃないか?」
チャーリーのからかうような口調に、アレスは顔を赤くした。
「兄上、あまりしゃべっていると疲れが出ますよ」
アレスが早口に言うと、チャーリーは困ったような顔で微笑んだ。
「アレスは心配性だな。……ありがとう」
アレスはドアから廊下に出た。
「それでは失礼致しました。行きましょう、カーリー様」
「はい、アレス様。それではチャーリー様、今度来るときには本を持って参ります」
カーリーもチャーリーの部屋を後にした。
「アレス様は、お兄様と仲がよろしいんですね」
カーリーが言うと、アレスは否定した。
「兄上が誰にでも優しいだけです。特に仲が良いわけではありません」
「……そうですか?」
カーリーはアレスに何と言って良いか分からなかった。
「そろそろ応接室に戻りましょう」
「はい」
アレスはさりげなく歩みを遅くし、カーリーの隣を歩いた。
「兄上と一緒になった方が、幸せになれるでしょうに。お気の毒です」
カーリーにだけ聞こえるような声で、アレスが囁いた。
「……ご自身のことを、そんな風におっしゃってはいけませんわ。アレス様」
カーリーは、兄と自分を比べ落ち込んでいるアレスを見て、何故そんな風に考えてしまうのか不思議に思った。
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