第22話 コーヒーの香り漂う学問の街の志高き喫茶店

このエッセイは、私が投稿している小説に関するものです。


投稿している小説の正式なタイトルは「京都市左京区下鴨女子寮へようこそ! 親が毒でも彼氏がクソでも仲間がいれば大丈夫!」です。

以下「(略)下鴨女子寮へようこそ!」としますね。

小説のURLはこちらです→https://kakuyomu.jp/works/16817139555256984196


前回、「フランソア喫茶室」の建築について述べましたが、建築家については書きませんでした。


「フランソア喫茶室」は京都の素敵な洋館の一つとして有名です。

ただ、一人の建築家の手になるというより、この「フランソア喫茶室」に集った、芸術家たちが建築物を含めて「フランソア喫茶室」という空間を作り上げていったという面があります。


「フランソア喫茶室」ウェブサイトによりますと……。


”立野正一、高木四郎、イタリア人のベンチベニら若い芸術家仲間が設計、

ステンドグラスの窓、優雅な白い天井、赤いビロードの椅子、壁にかけられた「モナ・リザ」の複製など、当初からサロン風の贅沢な喫茶店であった。”

(フランソア喫茶室 https://www.francois1934.com/)


1934年(昭和9年)という時代に、香り高いコーヒーとクラシック音楽を提供する喫茶室は、学問と文化の街である京都でさまざまな知識人に愛されたようです。


Webサイトの説明は以下のように続きます。


”戦時色が深まり自由な言論が困難になっていく時代に抗して、

反戦や前衛的な芸術を議論する場として、このフランソアを提供しようとしたのだった。

当時、先鋭な論調で知られた『土曜新聞』なども、ここに来ればいつでも手に入った。

寄稿者の多くがフランソアの常連だったのだ。

「野にすみれが自由に咲く時代である」と語りかけるその主張に、啓発され勇気づけられた若者も少なくなかっただろう”


時代の流れに飲み込まれまいとする、志の高い喫茶室だったようですね。


ここを訪れた文化人として「藤田嗣治、宇野重吉、桑原武夫」等の名前が挙がっています。うーん、凄い。


今は「京都の素敵な洋館♡」てな感じで女性向け観光ガイドブックで紹介されていたりするので、店内もそういう感じの若い女性同士のお客さんが多いのですが。

そして、若くない私も「素敵な洋館」として拙作に登場させるために訪れたのですが。


店内には、お年を召した男性客もいらっしゃいました。

コーヒーを片手に、ゆっくりと新聞を読み耽ってらっしゃいましたが、どこかの大学関係者の方でしょうかね……。

(京都の街って大学関係者が多くて。石投げればあたりますよw)。

創業の経緯を考えると、こういうお客様の方が本来だったのかもしれません。


拙作「(略)下鴨女子寮へようこそ」に登場する、女性や女性が集まる場所が苦手な武田氏。

「フランソア喫茶室」のもともとの伝統からすると、別に気後れすることはないはずですが。

ま、自意識がやや過剰な氏は、それはそれで「大学で学び始めたばかりの俺のような若輩者がこのような知的な喫茶店など……」とか考え込みそうです。


若者たちの議論の場として提供された「フランソア喫茶室」。

拙作では、西都大学工学部建築学科の武田氏と、法学部の新入生の美希とが、学問とどう向き合うか話し合います。


西都大学のモデルになった京都大学は教養主義が強いと言われます。

……で。教養主義とは何かとご説明しようとして、Wikipediaを見てみましたら。6つに分類されてましたw

ご興味のある方はどうぞご覧になってみてください。


私が拙作で「教養主義」という名前でイメージしているのは、「個人の人格を陶冶するとか、政治の主体として身に着けるべき素養であるとか、そいういう大きな課題を視野に入れているとても立派でエライ目標のために、読んでおけとされる難解な書籍や、ご年配の教授の講義」ですw


このように立派でエライ立場からなされる高邁な議論というのは、学部学生辺りにはなかなか煙たい……w

抽象的に過ぎたり、今生きている生活実感と遊離していたり。


こういうものが好きな学生というのもいるにはいますが、教養を身に着けていると自他に証明したいがためにやっているだけのようで鼻につくタイプも多いもの。

拙作で「学問のための学問」と表現したのはこの側面です。


一方、高校までのお勉強と違って、大学では本格的に学問を学びます。先達たちが築いてきた知の世界で教養として尊ばれているものに対しても、臆すことなく我が物としていくことが、大学での学問の根幹であるのも事実です。


だから、武田氏も、美希の「学問って本当は地味なんですね……。高校までの受験勉強が得意だっただけの私に、高邁な学問を学ぶことなどできるのでしょうか」という問いに、「難しい顔でコップを戻し、しばらく黙った」後で、「その問いは重要で、そして一生ついて回ると思う」と返答しているのです。


そして、モチベ維持のためには少しは実用的な面に触れた方がいいとアドバイスします。

それだけじゃなくて、自分の研究会にも紹介しようかとも言ってくれます。


この二人、この場面で、学問との向き合い方という割と真面目なな話をしてるんですよw

昭和9年に、高い志を持って創建された「フランソア喫茶室」で。


拙作「(略)下鴨女子寮へようこそ」を書いていて場面を設定するときには、「イノブンの近くの女性向けで男性が入りにくそうな洋館のカフェ……ソワレとフランソアとどっちにしよう?」と迷い、「周囲が落ち着いているからフランソアにしよう」くらいの気持ちで選んだのですが。

こうして振り返ると、美希と武田氏が学問について語る場面に「フランソア喫茶室」を選んでおいて良かったです。

(ソワレもソワレでとても素敵カフェです。拙作では出てきませんが、これから書く小説で、私が京都で登場人物をデートさせるなら是非その場面で使いたいです!)


「フランソア喫茶室」創業当時と今とで異なっているのは、西都大学にも「女子」学生が現れたところでしょうか。


男子学生の武田氏と女子学生の美希。どちらも異性に不器用ですが、それぞれの大学生活を有意義に送り続けるために、互いに偽装彼氏と偽装彼女の役割を担います。


この偽装カップルがどうなるか。

どうか最後までご愛読賜りますよう。


追記


「イノブン」「フランソア喫茶室」のどちらでも、武田氏は美希の話をよく聞きますし、美希に焦点を当てて会話を続けます。


この武田氏の振る舞いを、前半に登場した清水さんと対比して頂けるとありがたいです。

清水さんは美希を可愛い可愛いと言いますが、美希の専門分野に興味を示したことがありません。

美希が鴨川べりの荒神橋付近を「スーラの『グランド・ジャット島の日曜日の午後』のようだ」と言った時にも、「黒田さんと同じ文系やから絵に詳しいんやね」と黒田さんに結びつけてしまいました。


こ・こ・が! 大違いなんです……と強調させていただきたいと思いますw


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