第9話 【六回目】文化祭をバンドで盛り上げよう
体育祭も終わり、俺は百道浜のアドバイスのおかげで今ではクラスメイトだけでなく他クラスの生徒とも仲良くやっている。
最近、段々と城南の影が薄くなってきているように思う。陰でコソコソ城南と一緒に俺の悪口を言っていた連中も、今では手のひらを返したように俺に話しかけてきている。そういうのはそういうので良くないと俺は思うけどね。
学校内ではちらほらと、次の秋の大型行事「文化祭」の話が出始めている。
百道浜に相談するタイミングはここだろう。
そう判断した俺は、放課後にテレパス倶楽部に行くことにした。
×××
放課後、俺はいつものように部室の入り口を開けた。
すると、そこには葡萄のような甘い香りが漂っている。
「今日のは葡萄紅茶、とか?」
俺は百道浜に紅茶の種類を尋ねた。
「葡萄紅茶って何よ。響きが悪いじゃないそれ。巨峰のフレーバーティーよ」
……ネーミングセンスが悪くて、なんかごめんな。
そして俺は、いつもの席に着く。
「百道浜、お前のおかげで中学生活を楽しむことが出来ている。本当にありがとう」
俺は相談の前にまず、今までのお礼の言葉を述べた。
「私はただ、アドバイスをしているだけ。頑張っているのは、あなた自身よ」
百道浜は謙虚にそう答える。そのアドバイスがいつも的確だから助かっているんだけどな。
「で、今日は文化祭について相談したいんだ。学生生活で一番大きなことが出来るのって文化祭かなって思ってさ。何か良いアイデアとかないか?」
百道浜はいつものようにメモ帳とペンを胸ポケットから……取り出さない。
「恐らく、その答えは零くん自身の中にあるんじゃない?」
その通りだった。俺の中では、既に文化祭でやりたいことが決まっていた。
「……文化祭で自分の歌を披露したいんだ。バンドを組んでさ」
俺は、自分の考えていることを百道浜にそのまま伝えた。
今までずっと百道浜のアドバイスを貰ってばかりだった俺。でも、そんな俺が初めて自分のやりたいことを百道浜に話した。
「零くん、成長したわね。そうやって自分の意志でやってみたいことをやろうとするの、私はカッコいいと思うし好きよ」
深い意味がある訳ではないと分かっていながらも「好きよ」という言葉に若干、俺は照れてしまった。
「お前からそう言われると、素直に嬉しいよ」
俺は照れながらも、素直に感謝の言葉を述べた。
「そういうのは言葉じゃなくて態度で示さないと。ほら、ほら!」
そう言って百道浜は席を立ち、俺にハグを求めるように両手を手前に広げた。
「か、からかうんじゃねえよ!」
俺は、顔を真っ赤にしながら強めの言葉でそれを断った。
「つれないなー」
百道浜は、あははと笑った。さてはお前、悪女だな?
「話を戻すぞ。ボーカルは俺がやる。ギターは柴田。ベースは香椎。ただ、ドラムがどうしても見つからなくて困ってる」
俺は、現状の問題点を百道浜へ伝えた。
「あら、それなら簡単ね。私がドラムを演奏できるわ」
「ほ、本当か!!」
百道浜のその言葉に、俺は瞬時に反応した。
灯台元暗し。まさか、百道浜みたいに清楚な女子がドラムのような激しい楽器を演奏できるとは思わないじゃないか。まあ、偏見だけどな。
あ……。でも……。
「うーん。契約・ルールだと、ここでのアドバイスとここ以外での活動を合わせて二回分の回数を消費することになるんだけど、どうしようかな」
「そのルールのこと、すっかり忘れてたわ……」
それもそうだし、もしバンドの練習をするとしたら放課後は音楽室に百道浜を何度も呼び出すことになる。すると二回消費だけでは済まない。流石に回数が足りなさすぎるし、まだまだ相談したいことがあるからここで全てを消費したくはない。
「んー。私だけぶっつけ本番でもいい? それなら出演時間が短いから、今回の相談は一回にカウントということにしておくけど。今回だけ特別にね」
正直、百道浜だけとはいえ、ぶっつけ本番はしたくない。ただ、他にドラムが見つからないのは事実だし、何より見つかったとしてもコミュニケーションを取れるかどうかという問題すらある。
「お前、ぶっつけ本番でいけるくらいドラムの腕前に自信があるのか? それによる」
俺はそう答えた。
「そこは信じてもらっても大丈夫。即興ならドラム、ピアノ、様々な楽器で今までやってきたから」
百道浜はそう言うと、自分のスマホのデータに保存されている、自身がドラムを演奏している動画を俺に見せてくれた。
腕前は確かなようだ。百道浜は確かにプロ顔負けの演奏技術を持っている。
演奏方法はロックのような感じではなく、J-POPが似合うような感じだ。これから、俺たちの演奏する曲のイメージにもピッタリだ。
「その動画データ送ってもらえる?」
「ええ、送るわ」
そう言って百道浜は、俺にその演奏動画のデータを送ってくれた。
「ありがとう。この動画データを使って、ぶっつけ本番の件については柴田と香椎を説得してみるよ」
俺は百道浜にそうお礼を言った。
「当日、一緒に演奏できることを楽しみにしてるわ」
俺たちはそれから、その日も下校の時間まで話に花を咲かせた。
×××
文化祭当日。
「本当に大丈夫なのかな」
俺はあの次の日、頑張って柴田と香椎を説得したが、やはり本番を前にして柴田は不安そうだ。
それは香椎も同じ。そして俺も。
でも、やるしかない。
文化祭も終盤。俺たちの出番はもうすぐだ。
俺たちは体育館の舞台裏で待機している。
「お待たせ」
少し遅れて百道浜が舞台裏へと到着。
そして、とうとう俺たちの出番がやってきた。
文化祭実行委員会の生徒たちがスタンドマイクやドラムなどを運んでくれている。
俺たちはそれぞれの持ち場へと就き、演奏の準備をする。
演奏する曲は、俺の大好きなアーティスト「玄(げん)」の「虹色パプリカ」だ。
そして演奏開始。
パプリカという野菜にも様々な色や微細な味の違い「個性」がある。そしてそれらの「個性」が一つになった時、もの凄い力を発揮する。
時にはぶつかり合い、また時には一緒に涙する。
そうやって時間をかけて作り上げていく「虹色パプリカ」。
「虹色パプリカ」とは「友情」のことを指しているのかもしれない。
この名曲に、会場内は大盛り上がり。
みんな一斉に席を立ち、サビなどを一緒に歌う。
会場は一体となり、熱気で溢れかえる。
そして、演奏が無事に終了。
心配していた百道浜のぶっつけ本番も、全く問題がなかった。流石だよ。
体育館の中は拍手の音が響き渡っている。
生徒も教師も皆、拍手をし、感動してくれているのか中には涙を流している人もいる。
俺たちが舞台から降りると、同級生だけでなく先輩、後輩、様々な生徒から声をかけられた。
一躍、文化祭のヒーロー・ヒロインだ。
「あれ? 百道浜は?」
俺は柴田と香椎にそう尋ねたが二人共「そういえば、どこ行ったんだろう」という反応だ。
沢山の生徒に囲まれている中、さっきまで一緒だった百道浜の姿が見当たらない。体育祭の時と一緒だ。
人込みになると必ずいなくなる百道浜。もしかして、人込みが苦手だから?
百道浜にはまた助けられたのでお礼を言いたかったんだけど、それはまたテレパス倶楽部に顔を出した時にしよう。
こうして、文化祭での演奏も無事に終了。
俺、柴田、香椎は次の登校日からずっとヒーローのような扱いだ。
もう現在、城南のカーストは完全に壊滅し、俺はまたカーストトップへと君臨した。
ただ、俺はカーストのトップに立ちたい訳ではない。俺にはとある目的がある。
その為の準備は整いつつある。
そのことは、また近いうちにテレパス倶楽部に行って百道浜に相談しよう。
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