第7話 【四回目】クラスメイトとプールに行こう

今日は八月一四日。夏休みも中盤。


でも俺は部活をやっていない為、勉強すること以外は特にやることがない。


 周りの連中は部活か、帰宅部でも塾の夏期講習などを受けていて忙しい。


 うちも「夏くらいから入塾しない?」と母さんに言われたんだけど、ただでさえシングルマザーで私立中学に行かせてもらっているのに、これ以上家計を圧迫する訳にはいかない。そう判断して、俺は独学で勉強することを選んだ。


 ただ、最近は運動不足にならないように、夜に毎日ランニングを行うようになった。頭だけを使って身体を動かさないのは健康に良くないからな。


 ……思考がオッサンのそれだけど、まあいいや。


 実は明日、八月一五日には柴田に誘われて「グレートジャーニープール」という、県内最大級のアトラクションプールへ行くことになっている。


 その他のメンバーは香椎、そしてなんと百道浜。


事前に俺は柴田と香椎に(テレパス倶楽部のことは隠しつつ)百道浜の話をして、ココアで連絡をして百道浜を誘ったのだ。


 勿論、学校外で百道浜と会うから一〇回制限の回数を一回消費している。今回でもう四回使ったことになる。


 まあ、その話は置いておこう。


そういう訳で、うちの学校へ入学して初めて学校外でクラスメイトや百道浜と遊ぶことになっているんだ。


明日が楽しみだ。


×××


次の日の昼。


 燦々と降り注ぐ陽光。天気は快晴。

 気温が38度を超える猛暑となっている。絶好のプール日和だ。


 グレートジャーニープールへは現地集合。


 俺は、頭にはキャップを被り、ネイビーブルーのTシャツに黒スキニーパンツを合わせた。


 荷物は全て、白地にプリントの入ったトートバッグに入れて俺は現地に向かった。

 現地では既に柴田と香椎が到着していた。来るの早いな。


 柴田は、大きめサイズの白シャツとジーンズを合わせて、全体的に大きめのサイズの服でまとめあげていた。

 手にはモスグリーンに白文字で英語の入った手提げバッグを持って。


 香椎は、頭には黒のキャップを被り、白のシンプルなロゴTシャツに白ベースに黒のドット柄の入ったロングスカートを着用。

 体にはボディバッグを付けている。そこに荷物を入れてきたんだろう。


 まだ百道浜は到着していない。


 それから五分ほど経って百道浜がやってきた。


 百道浜は、黒髪のロングヘアをまとめ上げるように大きな黒いリボンを頭にはしている。

スカイブルーのワンピースに、手には麦わら素材のバッグを持っている。


「ごめんなさい、遅れてしまって」


 百道浜はみんなにそう謝罪をしたが、ギリギリではあるまだが待ち合わせ時間内だ。問題ない。


「この子が小倉の言ってた子? めちゃくちゃ綺麗な子じゃん! 始めまして! 俺、柴田透! 宜しくね!」


 見るからに柴田のテンションが上がっていた。さてはお前、女好きだな?


「百道浜さん、初めまして。香椎日葵です! 宜しくね!」


 香椎も明らかにいつもとテンションが違う。さては、お前も美少女好きだな?


「二人とも、百道浜を学校で見かけたことすらない?」


 俺が柴田と香椎にそう聞くと、二人共「ないない」と答えた。


 まあ、それも仕方のないことだ。


 百道浜のいるスーパー特進コース、第二校舎に俺たちみたいなボンクラ一般生徒が近づくことってまずないしな。


 百道浜だけでなく、スーパー特進コースの生徒なんて誰一人として俺たちは知らないんだから。


「二人共、宜しくね」


 そう言って、百道浜はニッコリと微笑んだ。


 そして百道浜は、ぽしょっと俺の耳元で囁く。


「まあ私、学校の生徒全員の顔も名前も把握しているから、二人のことも知っているんだけどね」


 そういやそうだったな。さすがスーパー特進コース。物覚えと観察力が凄すぎるだろ。


「まあ、早く中に入ろうぜ」


 そう俺が言うとみんな「うん」と頷き、そして中へと入った。


 グレートジャーニープールは、スライダー部分の長さが約四〇〇メートルある巨大なウォータースライダーが特徴的なプールだ。


 実際、中に入るとそれは入り口からみて中央に聳え立っていた。


圧巻も圧巻。もうここまでの規模になったらプールじゃなくてテーマパークと言ってもいいだろう。


俺たちは途中、お店でアメリカンドッグやたこ焼きなどを買って歩きながら昼食を済ませた。


そして、男女分かれて更衣室で着替えを済ませた。


俺はひざ丈の青の海水パンツ、柴田はひざ丈の赤の海水パンツだ。


俺たちが着替え終わり少し経って、女子更衣室から香椎と百道浜が出てきた。


香椎は、露出の少ないネイビーブルーを土台とした花柄ワンピースの水着。


百道浜も露出の少ない、白黒のギンガムチェックのロンパス水着。トップスとボトムスのつながった水着だ。ところどころにフリルがあしらわれている。


「二人とも、超いいじゃん! めちゃくちゃ可愛い!」


 柴田はテンション高く二人の水着姿を褒めちぎった。お前やっぱり、かなりの女好きだろ。


「まあ二人共、似合ってるよ」


 俺は無難にそう答えた。女子二人の褒められた時の反応は、意外にも柴田の方がいい。あれ? そんな露骨に褒められて嬉しいものなの? 女心はよく分からないな。


準備体操も済ませ、俺たちはまずウォータースライダーの周りをぐるりと一周している流れるプール、「グレートリバー」へと入って遊ぶ。


「でさ、小倉。どっちが本命なの?」


 ……は!?


「ど、どっちも本命とかそういうんじゃねえし!!」


 俺はとっさに否定した。


「ふーん。ま、二股だけはやめとけよー」

「二股とかしねえわ!!」


 柴田はケラケラと笑っていた。


 ほんと、世の中の男子はそういう下世話な話が好きだよな。


……俺がクラスで香椎と話しているのって、周囲の連中からはそういう風に見えてるのかな。


 そう心の中で呟いて、俺はちらりと百道浜の方へと目をやった。

 ふいに目が合ってしまったが、百道浜はニコッと笑顔で返した。


 その瞬間、俺の胸の鼓動が高まった。


 落ち着け。落ち着け俺。


「そ、そうだ! そろそろウォータースライダーに乗ろうぜ!」


 俺は自分を誤魔化すがごとく、みんなをウォータースライダーへと誘った。


 ここのウォータースライダーは、円形のゴムボートに四人で乗って楽しむようになっている。


 俺たち四人はゴムボートに乗り込み、係員の方に押してもらう。


 高さ約二四メートルから勢いよく滑り出す。


「きゃー!」


 香椎は楽しそうに声を上げている。

 しかし、百道浜は無言で震えている。


 そして、そのまま勢いよく俺たちは水中へゴムボートごとダイブした。


「百道浜、もしかしてこういうの苦手だったか?」


 俺はさっきの状態を見て心配になり、終わってから声をかけた。


「ええ、少しだけ。でも大丈夫。今日はみんなと一緒だったから楽しかったわ」


 百道浜の表情は少し辛そうではあるが、でも楽しいという気持ちも嘘偽りが無いように見えた。


「ならいいんだけど、無理すんなよ。俺が誘っておいて楽しくない思いさせたら申し訳ないしな」

「あら、意外と気が利くいい男ね」


 百道浜は、ふふっと笑った。「意外と」は余計だ。


×××


夕方になり、プールの水が夕日の色に染まっている。

 俺たちは帰宅する時間となった。


「今日はみんなありがとう。楽しかった」


 俺は三人にお礼を言った。


 そして、俺と柴田、香椎は電車へと向かおうとした。しかし、百道浜は動かないままだ。


「百道浜さん、電車じゃないの?」


 そう香椎が声をかけた。


「……私、両親が車で迎えに来ることになっているから」


 百道浜はそう答えた。


「じゃあ、百道浜さんのご両親が来るまで一緒に待ってようよ」


 柴田がそう提案した瞬間、百道浜は血相を変えて「大丈夫だから!!」と少し強い口調で言った。


 俺たちはそれに気圧された。


「ま、まあ、百道浜が大丈夫って言ってるんだから、俺たちだけで帰ろうぜ。じゃあ百道浜、またなー」


 そして柴田と香椎も「またなー」「またねー」と百道浜に挨拶をした。


「なあ小倉。百道浜さんとはどこで知り合ったんだ?」


 柴田は不思議そうに俺に尋ねてきた。


「それは、テ……」


 少し言葉が出かけたが、テレパス倶楽部で交わした契約のことを思い出した。『テレパス倶楽部のことを他の人に話してはならない』という文言を。


 危ない危ない。せっかく学校生活が上手くいきだしているのに、危うく百道浜との約束を破るところだった。


 でも、なんで話しては駄目なんだろうな。他の人にも話して、部室にもっと人が来た方が楽しいだろうに。


 そんなことをふと思ったが、でも約束は約束だ。


「たまたま第二校舎に行く用事があって、その時に知り合ったんだよ」


 俺は適当に誤魔化した。


「それって、ナンパじゃないの」


 柴田はそう言って、ニヤリと笑った。


「ナンパじゃねえから」


 俺は柴田をあしらうようにそう答えた。


 そして帰宅すると俺はすぐ、泥のように眠りについたのだった。

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