SHIROMA
けいひら
序章 ヒーロー
全てを包み隠すような暗さで覆われたある夜、土砂降りの雨の中を二人の男が走っていた。
「おい!こっちだ、早くしろ!」
大きなバッグを背負い、サブマシンガンのような銃を持った黒いニット帽の男は、背後の男に声を荒げた。
声を聴いた男は黒いニット帽の男を追いかける。息は荒く、足もガタガタと震えている。
「待ってくれ...もう走れねぇよ...」
黒いニット帽の男は怒鳴りつける。
「バカかお前!へこたれてる場合じゃねぇぞ!さっさと逃げねぇと、あの超人が...」
男が言葉を言い終える寸前、二人を進路を阻むように一人の男が空から降りてきた。
男の着地は雨音よりも小さく、かつ優しい。腕を前で組んだその男は、ゆっくりと二人の前へ近づき、二人の肩に手を置いた。
「君たちはまだやり直せる。もし、今すぐに自首をしてくれるのなら、罪を軽くするように私から警察にかけあおう」
男の口調は穏やかで、男が銃を持っていることに対して顔色一つ変える様子はない。
「クレーバー...クソ、本物かよ...」
黒いニット帽の男は観念して銃を地面に置こうと、ひざを曲げ、姿勢を低くした。
しかし、それはフェイントであった。
「死ね!クソヒーローが!!!」
銃口から数えきれないほどの銃弾が発射され、クレーバーの体を雨のように襲う。
だが、クレーバーは傷を負うどころか、その場から一歩も動くことなく全ての銃弾を弾き飛ばした。
「あ~あ、せっかく許してあげようと思ったのに、不意を突こうなんてとんでもないことをするもんだ」
クレーバーは二人の肩に置いていた手を服の襟もとへ滑らせると、二人の襟をつかみ、高速で空へと消えていった。
~警察署~
黒いニット帽をかぶった男と足を震わせた男が二人、ガムテープのようなもので手足と口元をぐるぐる巻きにされ、警察署のエントランス前に放置されている。
「これは恐らく...クレーバーの所業か...」
拘束された男たちを目撃した警察官の一人がそうつぶやくと、警察署内のオフィスの方から、クレーバーが熱々のコーヒーを恐る恐る啜りながらやってきた。
「このコーヒーは今回の報酬としていただきます。にしても熱いな」
クレーバーはコーヒーカップを大事そうに両手で持って「あち...あちち...」と言いながら、拘束された男たちの近くへ歩みを進める。
「クレーバー、いつも本当に感謝します。コーヒー一杯とは言わず、もっと欲を出してください」
ある警察官がそう言うと、周りの警察官もそれに同調して口々に「あそこの高級なお菓子なんてどうです?」「ぜひ我々と恒久的な契約を...」などと言葉を投げる。
しかし、クレーバーは両手を軽く上に挙げて彼らの声を治めると、署内に響き渡るほどの声で言った。
「実は、このコーヒーは、ちゃんとお金を払って私が購入したものなのです。無料でいただくことなんて、私ごときにはとてもできません。...私はある日突然、この力を手にしました。きっと、神様が私にくださったプレゼントなのです。この力を利用すれば、銀行強盗だって簡単。お金に一生困らない人生を送れていたことでしょう。しかし!この力は他人のために使うべきだと、そう感じました。それが、力を持つ者の使命なのです。弱きものを助け、人々を正しい道へと導く。それこそが私のすべきこと!私こそが、真のヒーローなのだ!」
警察官や事務員たちは並々ならぬ感動を顔に表し、拍手喝采は鳴りやむ気配がない。
そして、クレーバーは尊敬のまなざしを向ける人々を一通り見渡すと、人差し指を天井に向けて指し、こう言った。
「見返りなど求めない!それこそがヒーローだ!!!」
SHIROMA けいひら @zoo046
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