ひろいん学園研修声、乃愛はあきらめがはやい(G’sこえけん応募作)

和響

第1話 はじめまして乃愛です!

 こんにちは。あ、はじめましての方が、最初の挨拶にはふさわしいでしょうか。ごめんなさい。実は、わたし、ヒロインの研修に出るのは、今日が初めてで……。


 あの、もしかして変なしゃべり方だったりとか、それはないなぁとか思ったら、ちゃんと、本当、ちゃんと教えてくださいね。そうじゃないと、わたし誰かのヒロインに多分ずっとなれないと思うのです。本当、真面目にヒロイン目指して頑張りたいと思っていますので、遠慮なく、おかしなところがあったら、そこは違うと言ってください。


 先生は——


 ……え? 先生なんて呼び方はおかしいって? いえいえ! そこは先生で統一しなくてはいけないことになっておりまして。本当はお名前をお呼びしたいんですけれど、もしもお名前を呼んでしまって、その……ですね、あの、もしも……、恋に落ちるなんてことがあったら、いけない……ものですから……。なので、研修にお付き合いいただいている間は、先生と呼ばせてください。


 あ、申し遅れました。わたしの名前はノアです。なんじすなわちを意味する、「乃」に、ラブの方の「愛」で、乃愛ノアと言います。ダメですね、わたし。本当は自分の自己紹介が先なのにっ!


 もう、ばかばかばかばか、わたしのおばかっ!


 本当、そういうところがわたしの抜けているところなので、先生、思った時は注意してください。よろしくお願いいたします。


 こほん。


 では、先生、仕切り直して、これから一週間、わたしのヒロイン研修の先生をよろしくお願いいたします。えっと、では説明は、ひろいん学園の方ですでにお聞きかと思いますが、私の方からも改めて、ご説明させていただきます。


 でも、殺風景な会議室でお話っていうのもなんなので、よかったら少し学園内を歩いて、散歩でもしながらお話なんて、いかがですか? はい。ここで話していると、ヒロイン研修というよりも、なんだか就職説明会みたいな感じがしちゃって……。先生も、そう思いました? おんなじです! わたしも実はすごく緊張しちゃって、あ、でも、大事なことだけ、このかしこまった場所でお伝えしなくてはです。


 わたしのこの時計を見てください。はい、このハート型のスマートウォッチみたいな時計です。あ、よく見えるように、先生の方に今から行きます。ちょっと待っててくださいね。やけにひろい会議室ですもんね。


——コツコツコツコツ


 先生、この時計なのですが……、って、わわっと、あっぶなー。転ぶとか、ないですよね。本当、わたしこんなの初めてで、緊張してて……。


 あ……。


 ごめんなさい、距離が……いきなり近いですよね。そういうところも、わたしダメなんです。先生、おかしいなって思ったら遠慮なく言ってくださいね。でも、えっと……、このままお話してもいいですか? スマートウォッチの数字が小さいもので……。


 ありがとうございます!

 もちろんだよなんて言ってもらえて、乃愛のあ、嬉しいです!


 では、先生の横に座ってお話させてください。あ、髪の毛が……。ごめんなさい、お顔に。ちょっと、待っててください。ちゃんと結び直します。


 え? このままでいいって? そのふわっとした感じがいいんだよって……。嬉しいです。なんだか、恥ずかしくて、声まで小さくなってしまいました。小さな声でも聞こえる距離感、でも、なんだか近いと、恥ずかしいものですよね……。


 では……、ご説明をさせてもらいますね。


 先生、これをみてください。お気づきかと思いますが、ここに出ている数字は、時間ではないのです。実はここには、わたしが話す内容の全てが自動的に文字に変換されて、このハート型のスマートウォッチに文字数として表示されています。


 え? だんだん減っていってるよって? そうなんです! そこなんです。実は、わたしが先生に「ヒロインたるものこうあるべきだ」と教えてもらっている間の制限文字数は二万文字。つまり、わたしが、無駄なことを話せば話すほどに、この文字数カウンターは減り続けてしまうのです。ああ、こうしている間にも、もう、18357文字になってしまいました。


なので、今から無駄なく、「ヒロインたるものこうあるべきだ」を先生に教えていただき、そのパターンを習得すべく、わたしは精一杯頑張ります! 先ほど一週間と申しましたが、もしかして文字数カウンターがゼロになってしまったら、そこでわたしのヒロイン研修は終了となり、ひろいん学園を卒業できなくなります。


 え? 一度しかチャンスはないのか、……ですか?


 ひろいん学園の他の生徒はまだ挑戦できるかもしれないのですが、 一度きりの挑戦、それがわたしの両親との約束なのです。だからその時は、ヒロインになることを諦めて、普通の女の子として生きていくしかありません。子供の頃からアニメの中にいるようなヒロインになるのが夢だったんですけれど、そこは仕方ないですよね。


 先生、そんな、心配そうなお顔で見ないでください。大丈夫ですよ。そして、同情はご無用です! こう見えてわたし、切り替えが早いのですから。てへ。


 なんて話してたら、先生見てください! もうこんなに文字数カウンターが減ってしまいました!


——しー!


 うそでしょ……。こうやって指を口に当てて「しー」ってしただけでも文字数カウンターが減ってしまうようです。


 こうしてはいられません!


 先生、では早速、学園の中庭でもお散歩をしながら、先生が思う「ヒロインたるものこうあるべきだ」を教えてください。先生がお話する言葉は文字数カウンターには反映されないので、わたしは、先生のお話をいっぱいいっぱい聞いて、それで、頑張ってその理想のヒロインになり切ってみます。それで、もしもわたしが先生の思うヒロインになっていたと思ったら、その机の上にあるピンクのハートがついたヒロインステッキで、わたしの頭をなでなでしてください。そうすると、その電気信号がこのハート型のスマートウォッチにも反映されて、わたしのヒロインポイントが上がります。ポイントが上がっても文字数カウンターには影響がないのですが、総合点で評価されるので、ヒロインになれる確率が上がります!


 できるだけ無駄なことを話さず、二万文字以内の会話で一週間を乗り切る。そんなヒロイン研修で先生として指導するなんて本当に大変だと思います。先生、このような大役を引き受けてくださり、本当にありがとうございます。わたし、精一杯頑張ります。今日から一週間、そして残り文字数17371文字内のおしゃべりで、必ずヒロインになってみせます!



 


 


 




 

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