第93話 童話

 童話にしろ昔話にしろ、読むと怖くなる、数々の描写。今ではマイルドに変換されているが、これもコンプライアンスの影響なのか。


 おばあちゃんを食べた狼。報復に腹の中に石を詰め、沈める少女。恩を仇で返し、挙句の果て生命を奪う猿。集団で報復に向かい、仇を成敗する蟹。今では生命のやり取りせず、和解と反省。良いか悪いかは分からない。


 本日は童話の朗読対戦。イケボな対戦相手なら、即敗退する南山之寿。


『妖怪ヨームー』


 夜になると現れる妖怪。正体は、寝る前の姫。ニ歳になるか、ならないかの頃。読み聞せをしないと寝てくれない。一冊読んでは、次の一冊。『読む』と言って運んでくる姫。いや、読むのは南山之寿。まどろっこしくなると、数冊まとめて運ぶ指示をする姫。そう、運ぶのは南山之寿。読み聞かせが終わるまで、意外と時間を労する試練。声に出して本を読むのは、かなりきつい。


 うとうと寝かける姫。手に何かを掴んでいないと、訪れる不安感。決まって探す、妻の耳。布団を被って隠れても探し出し、掴む妻の耳。ある晩、聞こえる妻の悲鳴。『耳がもげる!』勢いよく引っ張ったのか、寝ぼけている姫。悲鳴をあげる妻。


『耳なし芳一』


 芳一っぽいのは、坊主の南山之寿。誰が見ても明白。悲鳴を耳にしても、無視してくつろいでいた南山之寿。感じる殺気。走る痛み。妻に耳を引っ張られる南山之寿。さながら、カツオ君。


 とある日の買物。ベビーカーで眠る姫。荷物をハンドルに掛け、ベビーカーを押す南山之寿。帰路に着く南山之寿の足跡を、綺麗にトレースする白線。座席の下にある荷物入れスペース。覗き込むと、破れた小麦粉。振動で少しずつ溢れる粉。振り返ると、スーパーから続いている。


『ヘンゼルとグレーテル』


 処置を施し、無事に帰宅。帰宅してから購入したお菓子を食したのは、言うまでもない。


 


 

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