第72話 クリスマスイブ

 年末になると気になる来年の干支。子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥と言っていかないと、出てこない動物。若に言わせると滑舌が悪いのか、子丑寅ヌー辰……と違う動物が混ざる。


 滑舌が悪いわけではないが、言葉に釣られる瞬間。とあるインドカレー屋での注文。ランチメニューを頼む南山之寿。『ランチセット、ライス無しナンで、ドリンクはラッシーで』と頼みたかったが、注文を急いだその結果、飛び出す混乱した言葉。


 『ランチセット、ライスナッシーナンで、ドリンクはナッシーで』それでもオーダーは通ったのだから、良しとする。ニコリと笑いサムズアップするサンタ帽を被った店員のおじさん。中東地域の方だろうか。12月のランチタイム。一足早い、メリークリスマスの挨拶。


 本日の対戦イベントは、クリスマスイブ。クリスマス商戦には引っかからない南山之寿。とは言え、チキンとケーキを頬張っているのだから、引っかかっているのかもしれない。


 クリスマス時期のバイト。ディスカウントストアは混み合い、シャンパンが良く売れる。特に一緒に祝う相手のいない男共が、シフトに名を連ねる期間。酒でも飲まねばやってられない気分。ここだけ、戦場のメリークリスマスな空間。


 営業時間が終わると、店長の差入れがあるクリスマス。ドンペリにチキンレッグ。バックヤードで始まる、プチクリスマスパーティー。他にも店内の食品や酒が並ぶ。嬉しいやら悲しいやら。酔いで忘れる、今宵のクリスマス。


 翌年こそはと頑張る南山之寿。何を頑張るのかは、謎であるが。それでも変わらぬ、一人きりのクリスマス。一人者同士、肩を寄せ合うクリスマス。朝から晩まで騒ぐしかない。酔いで忘れる、孤独のクリスマス。


 あれから過ぎた年月。チキンとケーキに胃もたれしながら、若と姫と賑わうクリスマス。赤い衣装には身を包まないが、深夜に変身する南タクロース。うっかり二人を眠りから起こそうものなら、この世から消されてさしまう儚い存在。今宵も枕元に現れる。


 皆様の枕元に現れたら、それは幻覚。そうならないことを祈り、〆の言葉。


『I hope you have a wonderful Christmas!』


 来年はうさぎ年。この話が、跳ねることは……。


 ――断じて、無い。

 


 

 


 


 

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