第46話 カラオケ

『桶狭間の戦い』


 1560年、尾張国知多郡桶狭間での織田信長軍と今川義元軍の合戦。二万五千人の今川義元軍に対し、僅か三〜四千人程度の織田信長軍。奇襲が見事に決まり、今川義元を討ち取る。強者の驕りと、挑戦者の気概。歴史から教わる南山之寿。


 今日の対決の場は桶狭間。ではなく、カラオケ。歌いたくない人に無理矢理歌わせる、カラオケハラスメント。オケハラと思っていた南山之寿。正しくはカラハラ。オケハラからの桶狭間。寒い冬を一層寒くする南山之寿。このくだらない戯言、ご容赦願う。


 無理矢理歌わせるのもハラスメントならば、勝手に歌うのもハラスメントなのか。上司の十八番を知らないうちに歌う南山之寿。怒り心頭に発する上司。ハラスメントとハラスメントのぶつかり合い。


『オケハラだ!の戦い』


 謝罪しておきながら、僅か数行で忘れる南山之寿。これも、ハラスメントかもしれない。


 最近ではリモートワークに利用できるカラオケや、一人専用のカラオケが増えた。映画館のチケット売場のフロアに鎮座していた一人カラオケボックス。中は丸見え。誰がこんなところで歌うのか。一度でいいから見てみたい南山之寿。


 学生時代、失恋で落ち込む友人。酒で忘れることのできない時代。励ますべく、数人でカラオケに行く。最初のうちこそ、明るい曲。とにかく明るい南山之寿。


 次第にバラード、失恋ソングのオンパレードに路線変更。励ましから、共感・共有へ。退店するときには、全員で進む暗黒面。堕ちたはずの暗黒面。フォースに導かれたのか、よりを戻す友人。南山之寿の気苦労を返して欲しい。


 カラオケは好きだが、苦手な南山之寿。何のこっちゃかもしれない。苦手の原因は、曲の間奏。あの間をどうやり過ごせばいいのか悩む南山之寿。とりあえずフード&ドリンクで口を塞ぐ。歌う時も、聴くときも変わらぬ戦法。コール&レスポンスはできっこない。


 歌う南山之寿。周りを見渡す。スマホをポチポチ。曲の入力をポチポチ。酒をグビグビ。


 ――誰も聞いてはいない。


 悲しいけれど終わりにしよう。


 自ら曲を止めた南山之寿。テーブルにマイクをそっと置いた。


 ――口にしたビールは、一段と苦かった。


 

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