第10話 ワックス

『暑中お見舞申し上げます。南山之寿』


 最近、You Tubeで見かけた動画。錆だらけのものを磨き、新品の様な輝きに復元する。見ているとスカッとする感覚になる。


 磨けば光ると信じて、早数十年。一向に光らない。このままでは、頭だけが……。そんな恐怖に陥ってしまう。すでに輝いている方には申し訳ないが。


 今日のトレーニングに取り入れるメニューはワックス。


 磨くという作業。個人的には、好きな作業だ。車も洗車後はワックスを塗り磨き仕上げる。引かれるかたもいるだろう。入念に洗い、磨き上げるなか輝き出すボディ。汚れたものが再び輝きを取り戻す。幸福の絶頂。おや、そんな目で南山之寿を見ないでほしい。ボディに頬ずりをして悦に浸る紳士ヘンタイではない。そして、磨いたボディが雨で汚れるのは、別の話。


 ちなみに、潔癖症の家事野郎ではない。掃除は嫌いで最低限しかやらない。磨いてきれいになるのが好きな、一点突破型だ。ちなみに、野郎ラーメンという店がある。『汁なし豚野郎』私の好きなメニューだ。ネーミングは、気にしないでいる。


 話がそれたので、元に戻そう。


 財布や革靴を磨くのも好きだ。財布の中身を取出し、軽く掃除。財布にワックスを塗る。愛用しているのは、ラナパーレザートリートメント。しばらく染み込ませるため放置。最後に磨き上げる。革靴も、同様。革も馴染めば馴染むほど、色合いが変わる。この表情の変化もたまらない。


 作業のビフォーアフターの違いが分かりにくいが、革の艶が戻りきれいになり、輝いている。違いを見抜く眼は磨かれていない。


 きれいになった財布を手に買い物へ。駅に着き、気が付く。中身を戻し忘れたことに。日曜日夕方の主婦と同じ有様。寂しく来た道を引き返す。


 注意力を磨き上げるのが先だ。

 



 

 

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