気遣いと爆弾と
「お〜い、人見知りの言い訳に話がすり替わってるぞ」
真面目な話もお構いなしにお菓子を食べ続けていた漢太の指摘に口をつぐんだ。
「それより蓮陽。これ見てみろよ、見たことないお菓子が山ほどあるぞ」
悪びれる様子もなく場の空気を壊す漢太に皆が気まずそうにしているが……。
「そのお菓子、前の彼女ご美味しいからって買ってきてくれたやつじゃないか?」
「そうだっけ?」
こういう場面であえて空気を読まない漢太の話に乗っていく。
漢太にとって聞き慣れた話だからというのもあるだろうけど、コミュ力の塊である彼が今の空気を理解していないわけがない。
そういう意味では、漢太は俺のために空気を読んでくれた、と言ってもいいのかもしれない。
「お前らなあ……」
ただ、そんな目に見えない意思の疎通をしていれば、雅が呆れ声を出し、吉田が呆れ顔をするのも当然の反応だろう。
「でも正直助かりました。こういう時になんて声をかければいいのか、正解が分かりませんでしたから」
それでも結果として漢太の行動に助けられたのだと、伊佐与さんに続いて雅も吉田も頷いた。
「蓮陽、こっちのお菓子も美味しいよ」
声に続けて風香が俺の袖を引き、珍しいと言うと失礼だけど、笑顔を浮かべながらチョコ菓子を手渡してくれた。
「……ありがとう」
漢太の真似をしたのか、風香の気まぐれなのか、ペアとの距離が幼馴染に近いものになっているようで少し嬉しく感じる、
「ところで、漢太ちゃんも風香ちゃんもさっきから見境なしにお菓子食べてますけど、その……体重、気にならないんですか?」
伊佐与さんの場合は、漢太や風香とは違って単純に気になったからの質問のようだ。
あまり気負われても困るしこれでいいんだけど、自分のトラウマを暴露した後にこんなあっけなく話題を転換されてしまうと若干複雑だったり。
「「たいじゅう?」」
漢太と風香が顔を見合わせる。これはこれで珍しい光景だ。
「あのな、体重なんて特に今は関係ないだろうが」
雅の感想はごもっともだが、吉田までも完全に聞く姿勢なのでそこそこに大事な内容らしい。
「たぶん石川も同じだけど、俺たちみたいな理想の外見になるタイプの呪いはいくら食おうが寝ようが太らない体質になるみたいだぞ。実際、俺は男だった時と同じ量食べても体重も体型も変わんないからな」
「…………チッ!!」
特大の舌打ち。
基本穏やかな性格の伊佐与さんが初めて他人に敵意を向けた瞬間だった……。
それからは無意に時間が過ぎていっただけに感じた。
漢太を除いてグループで固まり、お菓子片手に雑談しているはずなのに伊佐与さんの不機嫌がどことなく空気を悪くする。
「おいお前ら、やっと残り二組も決まったから戻れ……て、空気悪いなここ」
こんな時に限って役に立たない漢太のコミュ力に文句を言ってやりたい気持ちを抑えつつ、三時間もの気まずさをようやく来た乱入者が終わらせてくれた。
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