そんな都合のいい話……

飛び出した槍の先端に触れそうな距離で、その間を慎重に抜けていく。

 安全確認をしているとはいえ、文字通り一歩間違えれば命の危険さえある状況だが、唯一元気を取り戻していく漢が一人……。


「ぐへへぇ、やっぱり巨乳は最高だな…………おっ、また掠った! いいぞ! その調子だ!」


 大きいが故に狭い罠の隙間に苦心しながら進んでいく伊佐与さんの後ろから大興奮で実況、解説に勤しむ見た目だけ美少女の漢太と、目の前でドス黒いオーラを放っている風香に辟易しながらも、その先にお宝があると信じて進んでいく。


「ふぅ……」


 時間にして五分も掛からなかったはずの僅かな時間に気力をごっそりと持っていかれた気もするが、それでもようやくたどり着いた罠の先、何かが置かれていたであろう窪みを風香と二人で覗き込む。


 硬い石の上で正座中の漢太は伊佐与さんによるお説教タイムなのでひとまず放置で。


「蓮陽、どう思う?」

「やっぱり前に誰かが来てここにあった物を持っていった、と思う」


 念の為探索用のグローブをはめ、窪みの中に手を伸ばす。


「…………」


 目視でも確認できたが、底面に僅かに凹みが付いているのを実際に触れて確信した。

 凹みが綺麗な円形であるため人の手が入ったものだろうし、装飾ではなくその場所になにかを置いて、もしくは嵌めてあったと考えるべきだろう。


「他にも何かある?」


 風香の催促に応えるように側面、特に底面を丁寧になぞっていき、その感触に違和感を感じないかを探っていく。



 ……ない。こっちにも、こっちにも。凹みをさらに入念に調べて……やっぱり違和感は見つからない。


「ごめん……」


 ドラマや漫画の世界のように都合よく見つかることはないことは重々承知しているが、それでも言い出しっぺである以上罪悪感が込み上げてくる。


「大丈夫、次は私が調べる」


 しかし、一度ダメで諦めるほど考古学者は短気ではない。


 本人のやる気も十分な風香と場所を変わって、今度は風香が、探知機も使いながら窪みの中を調べ始めた。

 範囲を絞った探知機は当然その分だけ探知能力を増すことになり、「ある」なら見つかる可能性は高い。



「…………ダメ、みたい」


 それでも見つからない。

 ないものはない。


「見つからないのか?」


 よくあることだからこそ顔には出さないように落ち込む二人の様子を見聞きした漢太が後ろから窪みの中を覗き込んだ。


「ああ。そっちこそ説教は終わったのか?」

「終わってません。ただ今は探索が優先なので」


 やれやれと言わんばかりの雰囲気で漢太に並んた伊佐与さんの声色や表情からは怒りが消えていた。ただし、嘘はついていない。


「帰ってから続きするなら、エッチなお仕置きを希望します!」


「そうですね……なら石抱きとかいいかもしれませんね」


 それお仕置きじゃなくて拷問…………いや、「抱き」の二文字で逞しい妄想をしている漢太が嬉しそうなら止めないでやるのが優しか。


「ごめん、わざわざ寄り道したのに無駄足だったみたい」


「ごめんなさい……」


「いえ、こういう地道な作業の繰り返しが探索なのでしょうし、学校の用意した場所とはいえ実際の調査をしているところを見てみたかったのでむしろいい経験ができました」

「そうだぞ、おかげでオレもいい思いできそうだしな」


 かわいそうな漢太はともかく、伊佐与さんの言葉で少し罪悪感が薄れる。


 いい経験ができたのは僕や風香にも言える話だし、学校行事だから勉強をしたのだと思って切り替えていこう。


「とはいえ、せっかくここまで来たんですし、最後に私の占いで何もないか確かめてから戻ってもいいですよね」


「「へ?」」


 ここには「ない」ことを確認した二人が同時に素っ頓狂な声を出すも、それを気にもとめない伊佐与さんがスマホを取り出してその場で占いを始めた。


「……あれ、何かありますよ? ほらそこに」


 伊佐与さんが指差したのはついさっきまで漢太が正座していたまさにその場所。


「ああ、なんかゴツゴツするなとは思ってたけど、床が石だからってだけじゃなかったんだな」


 いやいや、そんなまさか……。


「……お、見ろよ蓮陽。ここの床外れるようになってるぞ」


 ここまで散々頼ってきておきながら失礼極まりないのは重々承知なのだけど、今だけは伊佐与さんの占いが外れてほしいと願っていた。


「これは……蓮陽! これ、遺物じゃないか!? 見つけたんじゃないか!?」


 床の下から取り出され漢太の手に乗せられていたのは、十センチほどの大きさの土偶。


 一般的なイメージとは異なる角の柔らかな逆三角形の顔に上半身だけの細身の体からこれまた細い腕が伸びていて、意図されたように左腕だけが折れていた。



「……まあ、そう、だろうな…………」



 これが本当に目的の遺物なのかは定かではない。けれど、見つかってしまった。


 いろいろな、善悪ごちゃ混ぜな色々な感情が頭の中を駆け巡る中で、一つだけ確かなことがあった。



 …………占いはズルだ。

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