予言・期待
「ペアマッチというのは文字通りペアで挑む校内イベントです。二年生でペアを組んですぐに行われるもので、その内容はお宝探し、しかも学校側が用意したオリジナルの遺跡が舞台となる擬似遺跡探索ができる初めての考古学者っぽいイベントになります」
そう、ペアマッチについて初めて教えてもらった時、僕は前のめりになって話を聞いたくらいに興奮したのを覚えている。
その時はまさか呪いのせいで強制的に専科を墓守にさせられるなんて思ってもみなかったからな……ほんと、思い出すだけで泣けてくるよ。
「…………えっと……これで連絡事項は全て伝えたか? それじゃあ……みんなお待ちかねのペアマッチについて説明するぞ」
一人でに嫌なことを思い出しているうちに勝手に進んでいたホームルームは、新たに一件、全壊があったという報告をしたところで終わり、続けて先生がいかにも不安を煽るように不敵に口角を上げた。
「はいはい、さっさと説明始めてください」
しかしそんな演出も微塵の興味もない生徒に受け流されるのであった。
「……ペアマッチは考校二年生にとって最初の行事だ。その内容は学校側が用意した遺跡を模したステージでの発掘調査、つまり偽物とはいえ遺跡の探索をおこなってもらうことになる」
若干いじけた様子で淡々と説明を始めた先生の言葉であっても、全員がすでにそのことを知っていてもなお、教室内にざわめきが生じた。考古学を学ぶためにこの学校に入学した僕たちにとって、偽物とはいえ遺跡の探索は初めての考古学者らしいイベントだ。それでテンションが上がらずにいられるだろうか? いやありえないだろう。
「嬉しいのは分かるが静かにしろ。参加するのは今朝までにペアの登録を終えた計四十六ペアだ。もちろん知ってはいると思うが、心配しなくても百人が同時に入ろうが気軽に鉢合わせられない程度に広い遺跡を用意しているからな、安心して探索と潰し合いを楽しんでくれよ」
遺跡探索に似合わない「潰し合い」という物騒な言葉をサラッと話の中に混ぜてきたが、ペアマッチと本来の遺跡の探索との決定的な違いとして、一つの遺跡に同時に大人数が入ること、そして遺跡にいる全員が考古学者であり盗掘者であるということが挙げられる。
さすがに命のやりとりまではしないが、携帯を許可された銃とゴム弾を用いてライバルたちをリタイアへ追い込むのはルールの範囲内ということだ。
……そう、この学校は初の遺跡探索で普通じゃないルールをぶっ込んでくれるイカれた教育機関なのだ。
「今年の勝利条件だが……例年通り、遺跡に隠された遺物を一つ持って遺跡の外まで持ち帰ったペアの勝利となる。遺跡内に隠されている遺物は五つ、つまり上位五ペア決めることになると思っておいてくれ」
先生はわざと明言しないが、毎年変わらないこのルールでは素直に遺物を発掘して持ち帰らなければいけないとは言っていない。
つまり何が言いたいのかというと……持ち帰りさえすればそれが自分のペアが見つけた遺物である必要はない、ということだ。
考古学者の学校でこのルールは本気でどうなのかとは思うが、前半三年間はとにかく生き残るための実力をつけることを求められる考校の教育方針と、実際に盗むことを経験することで盗掘者の行動パターンを身をもって体感するという目的のためにこの催しが開かれるということらしい。
「…………さて、ここまでが例年通りのペアマッチの説明で、そしてこれからが今年だけの特別要素の話だ」
とても軽い調子で放たれた「特別要素」という言葉で、シン……と、少し騒めきが残っていた教室の中が一瞬にして静かになった。
「例年のペアマッチのご褒美は『望んだ博物館を在中の学芸員の案内で見学することができる権利』なのだが……内容はまだ秘密だけど今年はそんなご褒美が霞むほどとびっきりの報酬を用意しているから楽しみしているように」
なるほど、これが伊佐与さんの言っていた「例年通りにいかない」部分か……。
学芸員の引率で博物館を見学できるということは、一般客では見られない内部まで見ることができるということだ。保存条件が難しく展示に出せないような遺物や、遺物の管理の現場を見ることができることを考えれば考古学を志す者としては最上級の経験と言えるだろう。
それが霞むほどのご褒美となると…………まさか貴重な遺物をもらえるのか!?
「ペアマッチの開催は三日後だ。揃いも揃って理想のご褒美のことで頭がいっぱいになってるだろうが、それまでは普通に授業があるってことも忘れるなよ?」
と、言われても、姿が見えないからこそ膨らむ期待と想像に熱せられた生徒たちが揃いも揃ってどこか上の空だったのは言うまでもないことだろう……。
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