プレゼント
久田高一
プレゼント
すらりと背の高いヤシの木に囲まれた、どこまでも続くかに思える砂浜。その砂浜は、わずかに見えるほど遠いところで海と溶け合っている。時刻は早朝。まだ鳥も起きておらず、ビー玉を転がしたかのような波の音だけが響いている。そんな美しい南国のビーチで、散歩に出ていた若いカップルが目にしたのは異様な光景であった。銀色で天辺に穴の開いた1メートル四方の立方体がいくつもいくつも並べられ、朝日を受けてぴかぴか光っている。
「あっ。一体これはどういうことだろう。ざっと見て100個はあるだろうか。機械で測ったかのように整然と並べられている。誰かのいたずらにしては少々手が込みすぎているようだよ。」
若い女の方は興味津々に近づいていこうとする恋人を引き留め、不安げに頭を振った。
「ねぇ。危ないわよ。いたずらにしたって何にしたって、変に触らない方がいいわ。警察に知らせましょうよ。」
「うーん。それもそうだな。君の言うとおりにしよう。」
こうして、通報を受けた早番の警察官が現場に到着し、一つずつ立方体を調べ回ってみたところ、立方体はどれも多少は動かせても、1人で運べるものではないことがわかった。
南国の太陽がじりじりと照りつける頃になると、ビーチには野次馬が集まり、規制線の外から写真を撮ったり、あの立方体の正体がなんであるかを言い合ったりするようになった。そこへ応援の警察官と一緒に表れたのが、宇宙科学専門のマル博士である。群衆を引き留めようと孤軍奮闘していた早番の警察官は、マル博士の姿を認めると驚いた声をあげた。
「もしかしてあなたはマル博士ではないですか?宇宙科学の分野で名の知れた博士がわざわざいらっしゃるなんて、まさか博士はあれが宇宙からきたものだとお考えですか?」
「うむ。その可能性は高いと考えている。」
「そりゃなんでまた?」
「すでにインターネット上には、あの立方体の写真が出回っている。インターネットの情報など普段は流し見するものだが、光かたが少々気になったのだ。写真の具合かもしれないが、あのような光かたをする金属は地球上ではごくわずかな量しか採れない。あんなにたくさんの立方体を作ることはできないのだ。もし本当にあれらがすべて貴重な金属でできているとしたら、それは宇宙からやってきたものかもしれない。それを確かめるために来たのだよ。」
マル博士が規制線をくぐり戻ってきたのは、夕方のことであった。博士はひどく興奮した様子で助手に話し掛けている。
「やはりそうだった!あれらは間違いなく貴金属の塊だ!宇宙からやってきたとしか思えん!これは大発見だぞ!」
「その通りです博士。我々の綿密な調査の上で明らかになったのですから、疑いようのない事実です。我々に危害を加えるような要素も見当たりませんでした。しかし…あれらは誰が何のためにおいていったのでしょうね?」
「それはまだわからん。追々調査していくことにしよう。ひとまずはこの大発見を公表しなければな!」
この奇妙な宇宙から来た立方体のニュースは瞬く間に世界中を駆け巡った。そして、誰が何のために置いていったのかが議論され、「実は侵略兵器である」とか「宇宙宅配便ボックスだ」とか様々な憶測が飛び交ったが、答えは出なかった。マル博士の調査は続けられたが、新しい発見は得られず,あれら立方体はいつまで経ってもただの穴の開いた立方体であった。
3ヶ月が経った。進展のないものは忘れられやすい。あの奇妙な立方体らもそうなるはずだった。そうならなかったのはひとえに、同じものが今度は別の浜辺へ出現したからである。しかもその数は前回を大きく上回る1000個近くあった。さらにその3ヶ月後には10000個近い立方体がまた別の浜辺に出現したのである。これには流石のマル博士も頭を抱えた。
「全くどうなっているのかわからん!何の役にも経たない立方体をなぜこうも何個も何個も送ってくるのだろう。説明書くらいつけてくれればいいのに!しかも3ヶ月ごとに10倍にしていやがる。各地の施設に依頼して精錬してもらっているが、何せ地球上にはほとんどない金属だからな。思うように作業が進まない。溶かす量を送られてくる量が上回っているのだ。」
近くで聞いていた助手がおずおずとたずねた。
「もし…このままのペースで送られ続けるとどうなってしまうのでしょう。」
「計算してみよう。……いつだか誰かがいっていた侵略兵器説はあながち間違いではなかったのかもしれんな。このままのペースで送り続けられるとあっという間に地球上は立方体で埋め尽くされてしまうぞ!」
そして、3ヶ月が経った。だが、地球が謎の立方体に埋め尽くされることはなかった。と言うのも、今度はおびただしい立方体の代わりに1人の人物が、事の始まりとなったビーチに表れたからである。その人物は銀色のダイバースーツのようなものを身につけ、すっぽりと頭までゴーグルで覆っていた。ゴーグルの下に見える顔面は半魚人といった感じで、少なくとも我々のよく知る地球人ではなかった。
マル博士は現場にすっ飛んでいき、この半魚人と接触を試みた。
「あーあー。私の話すことがわかりますか?」
半魚人は頷きながら、明瞭に答えた。
「聞こえている。それに貴方たちの言葉を話すこともできる。」
「それは喜ばしいことです。ようこそ地球にいらっしゃいました。単刀直入にお聞きしますが、貴方はこれらの立方体と関係がおありですか?」
「関係ある。これらは我々が送ったものだからだ。それに私達もずっと昔から地球に住んでいる。」
「えっ。それはつまり…どういうことですか?」
「我々は、そうだな、貴方たちの視点に立って言えば、海の民である。深海で生活をしている。街にはビルもあれば、車も走っている。貴方たちのものと違って環境を汚染するエネルギーは使わないがね。海流で発電できるのだ。それで、これらの立方体についてだが、これはゴミ箱だよ。あまりにも海にゴミが流れてくるものだから、地上はさぞゴミだらけで大変だろうと思って送ったのだ。中々使ってくれる気配がないから、足りないのかと思って追加で何回か送った。それでも使ってくれる気配がないから、もしや地上人はすでにゴミに呑まれてしまったのかと様子を見に来たんだ。しかし…どうやらそんな心配は無用だったようだな…?」
海の民はさも不思議そうに辺りをきょろきょろと見回し,その長い首をひねるばかりであった。
プレゼント 久田高一 @kouichikuda
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