【完結】王子殿下のエロ本を見つけてしまったら求婚されました。意味がわからないので婚約破棄してください。
夏まつり🎆「私の推しは魔王パパ」3巻発売
第1話 どうして見つけてしまったんだろう
とんでもない
大事なところがあけっぴろげ。縄だのロウソクだの、「ナンデスカソレハ?」なアイテムが目白押しだ。体中の血が沸騰するような感覚に襲われつつも、私の指はおそるおそるページをめくってしまう。子供にはとても見せられない刺激的で
――な、なにこれ? なんでこんなエロ本がアドルフ殿下から返却された本に挟まってるの!?
アドルフ殿下はこの国の第一王子だ。容姿端麗、文武両道、人当たりもいい。天に二物も三物も与えられる人間っているんだなあと、感心せずにはいられないほど完璧な〝王子様〟――それがアドルフ殿下。そんな人が、王立図書館に返却する本に、どうしてエロ本を挟んでるんだろう。そして私はどうしてこんなものを手にしてしまったんだろう。
私はただ、王立図書館の館長をしているお父様に忘れ物を届けに来ただけのはずだった。なのに、
「ちょうどいいところに来た! すまん、手伝ってくれ!」
と、返却された本を棚に戻す仕事を頼まれたのだ。娘とはいえ職員じゃないのに。子供の頃から暇さえあればこの図書館に通い詰めているから、本を見ればどこに戻すべきかくらいわかるけど。
娘づかいが荒いと悪態をつき、王宮から返却されたばかりの本を棚に戻していた。分厚い本の表紙の下に挟まっていた薄い冊子が落ち、軽い気持ちで開いたらエロ本だったのだ。
見なかったことにしよう!
最後のページまで読んでしまってから、冊子を閉じる。他にあるかもと調べたら、合計五冊のエロ本が挟まっていた。最初の一冊はSMものだったけど、他はそれぞれ別の特殊性癖ものだった。つい全ページ見ちゃった。
なんで私、こんなもの読んじゃったんだろう。
アドルフ殿下、こういう趣味の人だったの?
変な方向に趣味が広いのね……?
人は見かけによらない。完璧で絵に描いたような王子様も、蓋を開けてみれば
どうしよう。何も見なかったことに、何もなかったことにするにはどうしたらいいんだろう。第一王子の特殊な性癖を知ってしまったなんてバレたら、一族もろとも消されるかもしれない。うちみたいな領地もない弱小男爵家なんて、吹けば飛ぶ。アドルフ殿下の気持ち一つで消されかねない。
エロ本を棚に入れるわけにもいかず、本を運んできたワゴンに乗せた。とにかくこの冊子を秘密裏に捨てなければ……! 火照った頬と、ドキドキしっぱなしの胸を押さえ、気持ちを落ち着けようと目を閉じる。
――と。
「……中身、見たのかな?」
「ひゃい!?」
すぐそばで声がした。慌てて目を開くと、金髪碧眼の美青年――アドルフ殿下が立っていた。
サアっと血の気が引いていく。弁解しようと思うのに、唇が震えてうまく動かなかった。穏やかな笑みを浮かべている殿下の後ろでは、真っ青を通り越して真っ白な顔色の若い騎士さんが表情を失っている。
藍色の髪の長身騎士さんは、式典でいつも殿下のそばに控えている人だ。騎士さんが真っ白になっているということは、殿下の本をチェックもせずに返却したのは彼なの? いや――今は騎士さんよりアドルフ殿下だ。どうにかこの場を乗り切らなければ明日はない!
「な、なんのことでしょうか……?」
だめだ、声が震える。目も泳ぐ。顔もまだ熱いし、これじゃあ「はい見ました」と答えているようなものだ。
「そう」
アドルフ殿下のにこやかな笑みが逆に怖い。笑顔が厚い仮面に見える。
「場所を変えて少し話せるかな?」
逮捕ってこと!?
口封じのために処刑台直行ってこと!?
やばいやばいやばい! 家族で夜逃げしなきゃ! いや今すぐに王都を出よう! 今なら私がどこの誰なのか、殿下は知らないはず! 後ずさりして逃げ出そうとした私の背後で、
「娘が何かご無礼をはたらきましたでしょうか」
困惑気味のお父様の声がした。
なんで出てきちゃったのお父様!?
しかも今、娘って言った? 言っちゃった!?
「ああ、スコット卿。久々だね」
「ご機嫌うるわしゅうございます」
ほらバレたー! 身バレしちゃったー!! どうするのよお父様! 今この瞬間に、うちの家系は終わったよ!?
ああ、短い人生だった。子供の頃にこの図書館で仲良くしていた栗色の髪の男の子にもう一度会うっていう夢も、叶わないまま終わっちゃったなあ……。遠い目をしていたら、
「無礼なんてなかったよ。僕が彼女に一目惚れしてしまったから、求婚しようとしていたところ」
笑顔を崩すことなくアドルフ殿下がそう言ったので、私の表情は家出した。
な、何言ってんの!?
とっさにこんな大嘘を思いついて、表情を変えずに言えるんだね。アドルフ殿下ってすごいね。
「うちの娘にですか!?」
お父様が私の背後で図書館中に響きそうな大声を上げる。あっやばい、これ喜んでるやつだ。ガチガチに固まった首をどうにか動かして振り向くと、お父様は歓喜にうち震えていた。目の輝きが違う。
「彼女に婚約を申し込みたいのだけど、許してもらえるだろうか。スコット卿」
とは、アドルフ殿下。
やめて。
「もちろんでございます!」
とは、お父様。
やめて!?
どういう状況? まさか、夜逃げできないように逃げ道を塞がれたの? それともこの場を切り抜けるための嘘?
「では、正式な話は後日。その本を回収しても構いませんか?」
「ど、どうぞ……」
私が差し出した問題の本は、青い顔をした騎士さんが受け取った。五冊とも表紙だけは真っ白だから、お父様は何の本かわかっていないだろう。
「ねえ、あれってアドルフ殿下じゃない?」
「どうしてこんなところに!?」
「今日も素敵……」
周囲できゃいきゃい言ってる女性たちも、殿下が特殊性癖のエロ本を回収しに来たなんて思うまい。さすが王子様、現れただけで静かな図書館をざわつかせている。ギャラリーがどんどん増えていく。
アドルフ殿下たちが去ったあと、
「こんなことってあるんだなあ!」
と上機嫌なお父様に、気力が尽きた私は何も言えなかった。
ねーよ。
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