第17話 悲劇 2人の惹かれ合い

明日の準備も終わり、

(えー?もう終わり?なんも言えなかった…)


でも最後に、鷹也は朱羽子に、

「岩滑さん、何が岩滑さんの視界を妨げているとしても、大丈夫ですよ!俺、空の写真ばっか撮ってるから、人の心も空と一緒で、色んな顔を持ってるって、何となく分かるんですよ。人間、誰しも、必ず間違いや失敗をする。でもね、そんな人の為に空はあると思うんだ」

「どういう意味?」

「うーん…うまく言えないけど、今、岩滑さんの空が灰色なのは、何か岩滑さんの中で、かたがつかない事があるんでしょ?」

「かた…か…。うん。そうかもね…」

「それは広くて果てしない空がいつか抱き、包んでくれると思うんだ。その時、きっと岩滑の空も青く見えてくると、俺が保証します!!」

「私の『かた』がどんなに大きくても?」

「はい!」

「…」

納得がいかない…、と言った感じの朱羽子の顔に、鷹也は自分のボキャブラリーの無さを、心底恨んだ。


鷹也は最初の頃こそ、言葉を交わす事もほとんどなかったが、少し、話が出来るようになってきて朱羽子が、マスターの『愛想は無いけどいい子だよ』と言う言葉の意味が解って来た。


 朱羽子は色んなものを大切にした。

 喫茶店のプランター。

 食器を割らぬよう、慎重に大事に扱う所。

 笑いこそしないものの、お客様には、誠意を込めて、これこそプロだ、と言う雰囲気を醸し出す。

笑顔もないのに、みんな笑って、喫茶店を去ってゆく。

それは、彼女が傷ついたからこそ、築かれた、彼女の優しさをものがたっている。



そんな事、誰も、何も知らないけれど…。



『灰色にしか見えない』と言うが、鷹也が愛してやまない空を、朱羽子は毎日見つめていた。

まぁ、ただ単に朱羽子に見惚れていただけだが。


自分と見えている空とは違えど、スタジオで仕事をしているしている時や、自由な時間に空の写真をを撮っている時、『岩滑さんも今この空を上げているのかな?』と考えるだけで、嬉しかった。


鷹也が喫茶店に現れ、やっと朱羽子と笑いはしないが、大分ましな会話が出来るようになった。

話しをすればするほど、朱羽子見ていれば見ているほど、鷹也は、朱羽子にどんどん惹かれていった。


それは、朱羽子も同じだった。

最初は只の『うるさいお客様』だった鷹也が今では、『すっごく心の奇麗な人なんだ』に変わった。


前に、マスターが言ったように、『一緒に生きてくれる人かもしれない…』そんな感情さえ湧いてきていた。


その想いが、思い込みだった…と、朱羽子の空に、とうとう、灰色だった空が、真っ黒になり、冷たい雨で打たれる出来事が起こる。


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