15.Side アキト ―二人の母―
15-1 取り決め
アキトの頭の中でアケミが実の母親であるという明かされた秘密がグルグルと駆け巡っている。
衝撃の大きさに膝の力が抜け、その場にへなへなとアキトはへたり込んだ。
「親父、アケミさんがΩの母親ってどういうことだよ……」
アキトがやっとのことで声を絞り出すと、サダオは
「そのままの意味だ。何だ。お前は今までアケミさんが自分の母親だと知らずにここにいたのか」
と逆に尋ねた。
アキトが首を横に振ると、サダオは大きく溜め息をついた。
「親子であることを隠していたということは、少なくともやましい所があるとは思っていたんだろう。あなたは自分が約束を違反していることに気が付いているということなんだろうね?」
サダオが冷たい視線をアケミに送った。
「申し訳ございません!」
アケミは床に頭をつけて謝っている。
「アケミさん……」
ケンシロウが心配そうにアケミの背中にそっと手を置いた。
その光景をアキトはただぼんやりと見つめることしか出来なかった。
その後、
そこでアキトに隠されていた全ての謎が明らかとなった。
サダオとの子どもに恵まれなかったサチは、サダオの指示の元、Ωとの間に婚外子を設けることになった。
番となるΩを求めていたところ、出会ったのがアケミであった。
二人は出会った瞬間、運命の番であることを確信した。
無事、サチとアケミの間には子どもが生まれた。それがアキトであった。
サダオは十歳になって行なわれる検査を待たず、生後間もないアキトに対し、第二の性を確定する検査を医師の権限を利用して実施した。
果たしてアキトはαであった。
サダオはアキトを自分の実子として育てることにこだわった。アキトがαであることがわかったことで、「生粋のα」を授かったと対外的に喧伝したかったのだろう。
サダオはサチにアケミとの番を解消するように迫った。
婚外子を設けるためだけにΩと番を結び、それを解消することはこの社会ではタブーだ。
しかし、アケミの存在を世間に知られることは、サダオが「生粋のα」を設けることが出来なかったと対外的に示すことになる。
サダオのプライドがそれを許さなかったのだ。
「ニカイドウ家の跡取りとしてアキトを一人前の人間に育てるには、Ωの母親などとの関係は切ってしまった方がいいのだ。結局我々の判断は正しかった。そのおかげでアキトは大学院まで進学出来たのだからな」
サダオはそう言ってアケミに侮蔑的な眼差しを送った。その眼差しにアキトは嫌悪感を募らせた。
「それはあんまりだ。アケミさんの人生を何だと思っているんだよ。アケミさんは親父の玩具じゃない」
思わず自分への抗議を口にしたアキトをサダオはジロリと睨み付けた。
「ふんっ。アケミさんと暮らし始めて情でも移ったか。やはり、Ωとの間に生まれたαだけあるな。下らん情になんぞ惑わされおって」
そこまでずっと小さくなって話を訊いていたアケミが震える声でこう言った。
「本当に申し訳ございませんでした。この民宿の経営を引退しようと思い、後継者を探して求人を出した所、アキト君からの電話を偶然受けまして。声を訊いてすぐに息子だとわかりました。お二人とお約束をしたにも関わらず、どうしても息子に会いたいという気持ちに勝てず、アキト君を雇うことにしてしまったんです」
「下らんな。理性的に生きられず、情に流されて間違った判断を下すのがΩの弱い所だ。こんなことをしておいて、無責任にも程がある」
サダオは容赦せずにアケミを責め立てた。
アケミは泣き出さんばかりの勢いでサダオの前で土下座をした。
「申し訳ございません! アキト君はすぐにでもお二人の元にお返しいたしますので、どうかご勘弁を」
あまりにもサダオの横暴極まりない振る舞いにアキトの堪忍袋の緒が切れそうになった時だ。
「ちょっと待ちなよ!」
部屋の扉が勢いよく開き、その話を外で訊いていたらしいケンシロウが乱入して来たのだった。
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