13-7 突然の訪問者

 龍山荘に突如として現れたのは、ケンシロウの兄マサヒロだった。

 ケンシロウは高校時代に家を出てから一度も家族とは顔を合わせていない。

 マサヒロとも同じで、ケンシロウにとっては忘れたい過去の一ページに過ぎなかった。


「何しに来たの?」

 ケンシロウは震える声でマサヒロに尋ねた。

「ケンシロウ……」

 マサヒロがケンシロウに手をそっと伸ばして来て、ケンシロウは咄嗟にその手を振り払った。

「触んな! 帰れ!」

 ケンシロウは怒鳴った。

 マサヒロはその怒鳴り声にビクッとし、手を引っ込める。

「あ、あの……」

 困ったようにその場に立ち尽くしているマサヒロを置いて、ケンシロウは龍山荘の中に入ろうとした。

 すると、その手をマサヒロがギュッとつかんだのだった。

「触んなって言ってるだろ!」

 ケンシロウはマサヒロを振りほどこうとしたが、マサヒロは離そうとはしなかった。

「待ってくれ! 話だけでも訊いてくれ!」

「話すことなんかない。あんたが誰かなんてオレは知らない。だから帰れって言ってるんだ!」

 掴んだ手を振りほどこうとするケンシロウと、離すまいとするマサヒロの攻防が続く。


 そこへ騒ぎを訊き付けたアキトとアケミが駆けつけて来た。

「何やってるんだよ?」

「ケンシロウ君、どうしたの?」

 その瞬間、ケンシロウはマサヒロの手を振り解くことに成功し、マサヒロの前で乱暴に戸を閉じようとした。

 しかし、間一髪、マサヒロはその戸に手をかけて叫んだ。

「僕はケンシロウの実の兄です!」

「えー!?」

 アキトが叫び声を上げた。

 さっさと追い返したかったのに、追い返すに追い返せない状況となり、ケンシロウはむっつりと黙り込んだ。

「ここでもなんだから、上がって貰って話でも……」

 アケミがマサヒロを中に上げた。


 お茶を淹れると言ってアケミは厨房に戻り、食堂のテーブルをアキト、ケンシロウ、マサヒロの三人が囲んだ。

 ケンシロウは一人、むっつり黙ったままマサヒロとは顔も合わせようとはせずにそっぽを向き続けていた。


「はじめまして。マナベ・マサヒロと申します。ケンシロウがお世話になっております」

 マサヒロは丁重に自己紹介をした。

「ケンシロウの番のニカイドウ・アキトです」

 アキトまで釣られて言葉遣いが丁重になる。

「あなたがケンシロウの番の方……」

 マサヒロはアキトをじっと見据えた。アキトは頷く。

「はい。お兄さんがいらっしゃるとはケンシロウから訊いていましたが、まさかここでお会い出来るとは……」

「いえ、僕の方こそもっと早くご挨拶に伺えたらよかったのですが、ずっとケンシロウが家を出て以来、ずっと行方知れずになっていたもので」

「では、ずっとケンシロウを探して?」

 アキトの問いにマサヒロは頷いた。


「オレのことなんか放っておいてくれよ。あんたたちとはもう何の関係もないんだ。話すことも何もない。さっさと帰ってくれ」

 ケンシロウはつっけんどんに言った。

「おいおい。そこまで一方的に突き放すことはないだろ? 今までずっとお前を心配していたんだ。話くらい訊いてあげたらどうなんだ?」

 アキトがケンシロウをたしなめる。

 だが、ケンシロウはマサヒロと同じ空間にいるのも嫌だった。

「知らない。オレはあんたとこれ以上関わるつもりはないから」

 それだけ告げると、ケンシロウは自分の部屋に戻って一人で立て籠もった。

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