第49話 融けない六華
僕たちが捕まえた犯罪を犯した冒険者パーティ、通称レッドパーティは、冒険者ギルドに引き渡され、事実確認のために教会から派遣された【虚言看破】のギフト持ちにより、次々とその犯罪が明るみになった。それと同時に、彼らと協力関係にあった2つのパーティの存在も判明し、レッドパーティとして指名手配された。どうやら3つのパーティで協力して3交代制でボスを独占し、新たなライバルパーティを排除する密約を結んでいたらしい。
冒険者ギルドは事態を重く受け止め、同様の事件が起きないように再発防止策を講じると共に、事件を解決した僕たちを高く評価した。レベル2を飛び越えて、一気にレベル3冒険者パーティに認められたのだ。僕を除く『融けない六華』のパーティメンバーの認定レベルも皆レベル3に上がった。いくらレベル5までは比較的簡単に上がるなんて言われていても、驚きの早さのレベルアップである。
あぁ、そうだった。僕たちのパーティ名だけど、『百華繚乱(仮)』から『融けない六華』へと変わった。パーティ名が変わったのは、僕が新しくパーティに加入したかららしい。
「百華繚乱は5人の時に考えた名前だもの。それに、あんまりパッとコなかったのよねー。だから(仮)が外れなかったの。メンバーが増えたなら、当然変えるでしょ?」
そんなルイーゼの言葉から生まれたのが『融けない六華』だ。最初は『六華』だけだったのだが……。
「どう? 『六華』! かわいくない? ちょうど6人だし!」
嬉しそうに笑うルイーゼの方がかわいい。それにしても『六華』か……『百華繚乱』と『六華』。“華”が好きなのかな? たしかに、僕以外は華やかな美男美女だけど、僕に“華”は似合わないよ。
「それは良いですが、六華は花ではなく雪のことですよ? 儚く消えるものはパーティの名前としては縁起が悪いのでは?」
「そうなの? じゃあ『融けない六華』にしましょう」
「そんないい加減な……」
「いいんじゃない? 私は好きよ? その無理矢理な感じが野蛮な冒険者らしくて」
「いいんでない? ろっかかわいーし」
「いい…!」
皆の声を聞いたルイーゼが力強く頷くと僕を見た。
「クルトはどう?」
「僕?」
「そうよ。クルトも仲間だもの」
面と向かって言われると、ちょっと照れてしまうものがあった。そっか、仲間か。いいね。
「いいと思うよ」
今の僕には“華”はないけれど、いつか自分を華だと誇れるように、本当の仲間になれるように、頑張ろうと思えた。
「じゃあ、決まりね!」
ニコッと屈託のない笑みを浮かべるルイーゼを見て改めて思った。僕は君たちの仲間だと胸を張れるようになりたい。君たちに誇ってもらえるような、そんな仲間、友だちになりたい。心からそう思った。
こうして『百華繚乱(仮)』から『融けない六華』に変わった僕たちのパーティ名。よく考えなくても華の数が百から六に減ってるし、なんか無理矢理な感じがするし、ツッコミどころ満載だね。でも、僕はわりとこの『融けない六華』というパーティ名を気に入っている。僕も華と誇れるような皆の仲間であり友人でありたいという決意を思い出させてくれるからだ。根暗な僕のことだから、すぐには無理かもしれないけれど、いつかはきっと……。そんな思いにさせてくれる。
「パーティ名も決まったし! 次ね」
「次?」
尋ねる僕にルイーゼが元気に頷いた。
「そうよ! せっかくレベル3に上がったんだもの、次はレベル4のダンジョンがいいわ!」
その澄み渡った空のような青の瞳をキラキラさせて楽しそうに語るルイーゼ。やれやれ、ダンジョンから死にそうになりながら戻ってきたというのに、もう次に行くダンジョンの話か。少し呆れるものがあるけど、リーダーには必要な強引さだとも思う。今回の事件は、冒険者を辞めるメンバーがいてもおかしくないほどの事件だったと思う。皆を繋ぎ止めて、新たな冒険へと誘うルイーゼは、たしかにリーダーの素質があると思う。ルイーゼの存在が、皆を一つの方向に向かって走らせるキッカケになっている。
「そうですね。しばらくは休養が必要ですが、次に向かうダンジョンを決めてもいいでしょう。情報収集にも時間が必要ですので」
「私もハルトの意見に賛成よ」
ルイーゼがリーダーなら、ラインハルトとイザベルはパーティの参謀だろう。2人は多い? ダブルチェックができるんだから良いことだよ。
「クルトはどこか良いダンジョン知らないの?」
「僕?」
僕は、自分で言うのも恥ずかしいけど、このパーティの生き字引みたいなものかな? これまでいろんなダンジョンに行ったから、知識だけは豊富なんだよ。ほんと、知識だけね。戦闘力はゴミだから。
「そうだなぁー…」
レベル4ダンジョンで良い所なんてあったかな? 稼ぎというのも重要だけど、やっぱり一番重要なのは、攻略できるのかどうかだろう。『百華繚乱(仮)』改め『融けない六華』は、最高戦力である勇者を3人も有するゴリゴリの武闘派だ。おそらく、戦力だけならどんなレベル4ダンジョンだろうと軽々と攻略できるものを持っている。問題は知識と経験と……。
「ん? あーし?」
僕の視線に気が付いたマルギットが自分を指さす。そう。問題はマルギットの盗賊としての能力だ。
盗賊。なんで盗賊なんて犯罪者のような呼ばれ方をするのか分からないけど、冒険者パーティにおける役割の1つだ。その役割は、斥候と解錠。あらゆる罠を解除し、パーティを安全に導く水先案内人。そして、ダンジョンの中に稀に現れる宝箱を開ける鍵師でもある。宝箱は、最悪開けられなくても宝箱のまま持ち帰ればいい。問題はマルギットの罠を解除する能力だ。
これから攻略するダンジョンのレベルが上がれば、罠の威力も解除する難易度も上がっていく。このあたりでマルギットの能力を確かめるのもアリだろう。となると……。
「僕のオススメは……オーク砦……かな」
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