第28話 告白
意外に思うかもしれないが、冒険者の朝は早い。まだ完全に日も出ていない薄暗い中、武装した冒険者たちが、続々と冒険者ギルドへと集まっていく。きっと今頃、割りの良いクエストの奪い合いでもしている頃だろう。
冒険者と云っても、ダンジョンへの冒険ばかりが仕事ではなかったりする。護衛や狩猟、探査などなど、冒険者ギルドに寄せられる依頼は意外にも多い。それらクエストを受注するのも冒険者のお仕事の1つだ。その中にはダンジョンに潜るよりもよっぽど割りの良いクエストもけっこうある。というか、そうじゃないと冒険者たちもクエストを受けない。
じゃあ、ダンジョンに潜るよりクエストを受けた方が良いじゃんとなるんだけど、クエストを受けるにはパーティの認定レベルを上げる必要がある。クエストごとに、受注に必要な認定レベルが決まっているのだ。
このパーティの認定レベルは、冒険者ギルドがパーティの実力や実績、信頼度などを表した値だ。これを上げるにはダンジョンに潜るのが手っ取り早い。多少の前後はあるけど、パーティの認定レベルは、攻略できるダンジョンのレベルと等しいと云われている。レベル3のダンジョンを攻略できれば、パーティの認定レベルはレベル3といった感じだ。
まぁダンジョンを攻略して上げられるのはレベル3までで、そこから先はパーティメンバーの人柄なんかも重要になってくる。冒険者というのは暴力を生業としているからか、乱暴で横暴な奴が多いからね。レベル3止まりの冒険者パーティが多い。レベル4以上に上がれるのはその中でも比較的温厚な冒険者パーティか、そんなことが些事になるくらい実力が卓越している冒険者パーティだけだ。
ややこしいことに、冒険者ギルドが定める認定レベルは、パーティだけではなく、個人にもある。『極致の魔剣』を例にすると、パーティの認定レベルは7、【勇者】だったアンナはレベル8、アレクサンダー、ルドルフ、フィリップ、そして僕がレベル5だった。僕でもレベル5まで上がれたのだから、レベル5までは俗に云うパワーレベリングが可能だ。でも、個人認定レベルの6以上は、厳正なる審査があるらしい。アレクサンダー、ルドルフ、フィリップの誰も突破できていないのだから、冒険者ギルドには【勇者】におんぶに抱っこだったのがバレバレだったね。グッジョブ冒険者ギルド!
「あぁ」
心の中で冒険者ギルドを称えていると、冒険者ギルドに近づく1つのパーティを見つけた。金髪長身のイケメンと、それぞれ個性の違う美少女4人のパーティだ。なんか見てるだけで華のあるパーティだね。近寄るのがちょっと畏れ多いよ。それでも近寄るんだけどさ。だって、僕もそのパーティの一員だし。
「おはよう、皆」
「え?」
「はい?」
声をかけたら、まるで不審者を見るような目で見られた。あれ…?
「って!よく見たらクルトじゃない!なんでフードなんて被ってるのよ?一瞬誰かと思ったわ」
「ああ、クルトさんですか。急に現れたのでビックリしました」
「ほんとそれなー。んでんで、クルクル、なんか前と恰好違くない?」
「おはよう、クルト。なんだか今日の格好はいいわね」
「おは…!ょうございます…」
良かった。忘れられたわけじゃないみたいだ。そういえば、効果の程が知りたくてフードを被りっぱなしだったな。僕はフードを取ると話を続ける。
「臨時収入があってね。装備を一新してみたんだ」
「黒い髪に黒い目、おまけに黒いローブって、イザベルの兄妹みたいね」
ちょっと不満そうに頬を膨らませてルイーゼが言う。たしかに同じ黒髪黒目だし、同じ黒い恰好をしているから、そう見えるかもしれない。
「誰も取らないから安心なさいな」
「そんなんじゃないわよ!」
イザベルの言葉にルイーゼが頬を染めて叫ぶ。何のことだろう?
僕の顔に疑問が浮かんでいることに気が付いたのか、マルギットがニンマリとした笑みを浮かべて僕に耳打ちする。
「ルイルイったらねー、クルクルと別れてから、クルクルのことばっかり話しててねー……」
マルギットの顔がすぐ横に来てドキリとするのと同時に、話の内容にもドキドキする。それって……。
「もしかしたらルイルイはクルクルのこと……」
マルギットの吐息が耳にかかってムズムズする。なぜか分からないけど、頭が痺れるような心地良さがあった。これヤバイかも……。
「こら!そこ!何やってるのよ!」
ルイーゼの言葉に僕はハッと正気に戻った。危なかった。何が危なかったかは分からないけど、とにかく危なかった。例えるなら、蟻地獄から生還した気分がした。
「ごめんじゃん、取らないってばー」
「もー!そんなんじゃないったら!ただ、クルトが傍に居ると調子が良いってだけで……」
「それってもーそういうことっしょ」
「そうよね」
「あの…!認めたら、楽に……」
「もー!違うったら!」
ルイーゼが顔を真っ赤にして叫んでいる。そんなルイーゼもかわいい。
ルイーゼの言ってることは、事実だ。彼女は【勇者】なのだから、僕の傍に居るとバフがかかる。それを「調子が良い」と感じ取っているんだ。
「皆、ちょっと聞いてほしいことがある」
ルイーゼが【勇者】になったこと、そして僕の【勇者の友人】について、彼らは知る権利があると思う。いつまでも正体不明の謎の力では、ラインハルトじゃないけど気持ちが悪いだろう。
「なになに?告る?告る?」
「え?えー!?」
「急ね」
「わくわく…!」
女の子4人の視線が僕に集まる。ルイーゼは恥ずかしそうに頬を染めて僕をチラチラと見て、他の3人は目をキラキラさせて何かを期待している表情だ。
「……期待を裏切るようで申し訳ないけど……」
僕は自分のギフト【勇者の友人】について話し出した。ルイーゼへの告白?いや……まだ、早くない…?
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