第13話 嫌われ者
「すみません、クルトさん。ほら、ルイーゼも謝って」
「その、ごめんなさい」
「いいよ、いいよ。これぐらい大丈夫だから。これでも鍛えてるんだ」
ルイーゼのかわいい上目遣いに一発でKOされた僕は、頬が熱くなるの感じつつ、顔をルイーゼから逸らして早口で答えた。ルイーゼの上目遣い、かわいすぎるだろ。
ラインハルトとルイーゼが何を謝っているのかといえば、ルイーゼのおかわり要求でダンジョンをもう一周回った結果集まったドロップアイテムについてだ。当初の想定の2倍以上集まってしまったドロップアイテムである金属のスクラップの山。当然だね。おかわりして、もう一周ダンジョンを回ったんだから。
「その……僕の方もごめんね。全部、僕が持ち運べたらよかったんだけど……」
集まったスクラップの山は、完全に僕の持ち運べる許容量を超えていた。たぶんガチポーターなら1人で持ち運べるのだろうけど、無能なポーターもどきである僕には無理だ。その結果、僕が持ち運べない分を『百華繚乱(仮)』の面々に持ってもらうことになってしまった。全ては僕が無能なせいである。
「いいのよ。1人に全部持たせて自分たちは楽ちんなんて、どうかと思ってたし!」
「それなー」
そう言って僕を励まそうとしてくれるルイーゼとマルギット。その気持ちは嬉しいけど、それだとポーターの存在意義が無くなっちゃうんですがそれは……。
「元はと言えば、ルイーゼがもう一周したいとわがままを言ったからですよ。ですから、どうかクルトさんはお気になさらないでください」
僕に次ぐけっこうな量のスクラップを持つラインハルトが額に汗しながら言う。
「ポーターってどんなものかと思っていたけど……すごい量持てるのね。貴方、本当に人間?」
「すごい…!」
イザベルとリリーが褒めて?くれるけど、全然すごくない。これくらいは鍛えれば、ちょっとしたコツを知っていれば、様々な工夫が施された鞄を持っていれば、誰にでもできることだ。本物のガチポーターは、僕と比べるのも失礼になるほど荷物が持てる。パーティメンバーに荷物を持たしてしまうなんて……僕はポーター失格だね……。ポーターもどきを名乗るのも烏滸がましいかもしれないなぁ……。
◇
「「「「「「はぁー…」」」」」」
もう夜も遅い時間に冒険者ギルドに帰り着き、持ち帰った金属スクラップを冒険者ギルドに提出し、やっとの思いで待合室の椅子に座った瞬間、深い溜息が6つ重なった。そのことが、なんだかおかしくて、自然と顔が綻んだ。
「やっと笑ったわね」
「え?」
ルイーゼが僕を見て笑みを浮かべる。
「あなた、ずっと申し訳なさそうな辛気臭い顔してるんだもの」
ルイーゼの言葉にドキリとする。顔に出したつもりはなかったけど、顔に出ていたらしい。
「その、ポーターの仕事が果たせなくて、申し訳なくて……」
「あなたは気にしすぎよ。そんなになんでもかんでも自分のせいにしてたら、疲れちゃうわよ?こうなったのはウチらのせいで、あなたのせいじゃないの」
キッパリと言い切るルイーゼの言葉に、僕はなんだか肩の荷が下りたような、ずっと張りつめていたものが緩む心地がして、体の余分な力が抜けて楽になった気がした。
「ウチらってか、ルイーゼのせいだねー」
「うぐっ」
「そうね。私たちを巻き込まないでちょうだい」
「うぐぐっ」
マルギットとイザベルの言葉に、ルイーゼが胸を押さえて苦しげな呻き声を上げた。
「ルイーゼの言葉ではありませんが、本当に気にしないでください。むしろ、私たちの方が謝らなければなりません。本当にすみません……」
「その、ごめん、なさい……」
ラインハルトとリリーが頭を下げてまで謝るのは、冒険者たちの僕を蔑む視線に気が付いたからだろう。パーティメンバーに荷物を持たせるなんて、ポーターとしての能力不足を公言するようなものだ。ポーターの風上にも置けない、ポーターの恥晒しと思われても仕方がない。
「まさか、あんなことになるなんて……」
今まであんな目で見られたことなんて無かったのだろう。ラインハルトは僕以上に重く受け止めているみたいだ。
「いいんだ。気にしないでよ。元々僕の評判なんて底辺だからね」
まだ嘲りの視線や陰口だけで、直接的なものじゃなかっただけマシかな。ラインハルトたちに荷物を持ってもらった時点でこうなることは分かっていたけど、僕はそのままにしていた。せっかく入手したドロップアイテムを捨てていこうとも言えないからね。それに、僕の評判は、元々これ以上下がりようが無いほどド底辺だし、今更かなという思いもあった。
元から僕は、勇者パーティに相応しくない、あんな奴がどうして勇者パーティに、と快く思われていなかった。冒険者は、実力主義なのだ。実力が高い者が尊ばれ、逆に実力の無い者には残酷なまでに無関心。発言権すら与えられない。しかし僕の場合、勇者パーティに居たものだから下手に知名度は高い。だけど、実力は無いから冒険者からの評価は最底辺だ。この結果、何が起きるかというと、冒険者からの僕への態度は、無関心を通り越して嫌悪になる。ようするに、僕は皆の嫌われ者なのだ。
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