第9話 作戦会議
ダンジョン『ゴブリンの巣窟』の一番奥。ボス部屋近くの安地に着いた僕たちは、立ったまま作戦会議を開いていた。なんで立ったままなのかな?座ればいいのに。
「ここが安地ですか……退路がありませんが…?」
ラインハルトが周りを見ながら疑問の声を上げる。たしかに、退路が無いのは、この安地の大きな弱点だ。袋小路だからね。
「逆に考えると、後ろから襲われる心配が無いから、前だけに集中できるよ」
そんな屁理屈みたいなことを言いつつ、僕は背中の大きな鞄を下ろして洞窟の地面に座り込んだ。
「ふぅー…」
疲れたー…。ルイーゼが予想外の強さを見せてポンポンと敵を倒すものだから、ドロップアイテムがもうけっこう溜まっている。既に重いと感じるほど鞄は膨らんでいた。
「皆も座ったら?」
「そうね」
僕の言葉にルイーゼが真っ先に座る。その姿は、なんだか僕を信じてくれているようで嬉しく思う。
ルイーゼが座ったのを見て、他の『百華繚乱(仮)』のメンバーも顔を見合わせておずおずと座りだす。こういうルイーゼの率先して行動するところはリーダーっぽい。それ以外はあまりリーダーっぽくないけどね。
ルイーゼは、元々持っていた丈夫な膝丈ワンピースに革の鎧を着ましたというような、言い方は悪いけど初心者丸出しの格好をしている。なんだか見ているだけで心配になる格好だ。だけど強い。それはもうデーモンのように強い。もはや見た目が詐欺みたいな感じだ。
そういえば、アンナも最初はお金が無くてみすぼらしい恰好をしていたから「見た目詐欺」ってよく言われてたっけ。
「退路が無いのは不安ですが……分かりました。後ろから襲われる心配が無いというのは、たしかに利点です」
そう言って、自分を納得させるように頷くラインハルト。良かった。一応合格を貰えたようだ。
「では、確認の意味も込めて、最初からおさらいしましょう。最初は、マルギットの出番です」
「あいあーい」
ラインハルトの言葉に、片手を上げて明るく軽い返事をするマルギット。彼女もすごい格好してるんだよなぁ……。
「マルギットにはモンスターの誘導をお願いします。ここまでモンスターを連れてきてください」
「ういうい」
意外にもかわいらしく女の子座りをしているマルギット。その大きな丸い碧の瞳は、どこか愛嬌を感じさせる。かわいらしい雰囲気の女の子だけど、その雰囲気とは反するように、なかなか過激な格好をしている。膝上まであるニーハイソックスと肩まであるグローブをしているから肌の露出はそれほど多くない。だけど、小さなホットパンツとピッチリと肌に張り付いたような装備は、彼女のボディラインをくっきりと露わにしている。敏捷性が重要な盗賊とはいえ、あんな恰好で恥ずかしくないのだろうか? 僕はあまりじろじろと見てはいけないと思ってマルギットから視線を外した。
「誘き寄せたモンスターが1体なら、ルイーゼがモンスターの注意を引き付けて、私とマルギットで攻撃をします。相手が複数体の場合は、イザベルの魔法で先制攻撃をして敵の数を減らします。マルギットは何体のモンスターを連れてきたのか確実に報告を。魔法を使用するかどうかの判断はイザベルに任せます」
「了解よ!」
「あいさー」
「分かったわ」
ラインハルトの指示にルイーゼ、マルギット、イザベルが返事をする。イザベル……彼女の格好が一番訳が分からない。
イザベルは、貴族が夜会で着るような黒いイブニングドレスを着ていた。大きく胸元や肩が剝き出しになったセクシーな格好だ。なんで?なんでダンジョンにドレスを着てくるの?訳が分からないよ。
松明の光に照らされて、オレンジを帯びた黒い髪に黒い目、そして黒いドレス。なんだか喪服みたいで縁起が悪いと思うのは僕だけだろうか?いや、似合ってるんだけどさ。
「もし怪我を負った場合はリリーに治療してもらいます」
「はい…!」
ラインハルトの声に、リリーが胸の前で小さく拳を握って答える。その姿は、小さな体躯も相まって、小動物のような健気なかわいらしさがあった。とても癒される。
その銀に輝く神秘的な髪。どこまでも澄んだ深い青い瞳。将来、美人になることが約束された、未だ幼さを強く感じさせるかわいらしい顔立ち。たぶん、この中で一番顔が整っているのは彼女だろう。非人間的なまでに整った顔は、修道服を着ているからか、地上に舞い降りた女神のような、どこか神々しさすら感じさせる。
「敵はゴブリンですが、油断しないようにいきましょう。本気でやらなくては練習にはなりませんからね」
そう檄を飛ばすラインハルトは、とてもリーダーっぽい。なんていうか、物語の主役みたいだ。金の長髪に鋭い緑の瞳。均整のとれた長躯は芸術的ですらある。ただ残念なのは、彼も装備がショボいということだろう。ルイーゼと同じような安物の革鎧に身を包む姿は、ミスマッチ過ぎて笑えてくる。
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