第二十一話 はじまり

 町長は死んだ。

 もう居ない。


 先程、スライムマザーに捕食され、跡形も残さず消え失せたからだ。


「……はぁ」


 と、エリゼは思わずガックリしてしまう。

 復讐はすごく楽しかった。

 なんなら楽しすぎた。


 つま先から脳天まで、駆け巡るようなエクスタシーを確かに感じた。


 だからこそのため息だ。

 だって、もうあの恍惚の時間は終わってしまったのだから。


「復讐としてはこれ以上なく上手くいったのは確かだけれど……足りないわ」


 もっと刺激が欲しい。

 もっと誰かに復讐したい。


(私を追い詰めて、安全圏からニヤニヤしているやつを引き摺り落として……ふふっ、そいつをめちゃくちゃに壊してやるあの瞬間)


 たまらない。


 と、エリゼはその瞬間に気がつく。

 とてつもないアイデアに。


「そうよ! だったら復讐すればいいじゃない!!」


 復讐をもっとしたいなら、復讐する相手を探せばいい。

 冒険をして、色々な人に会えばいいのだ。


 この荒んだ世の中。

 きっと町長みたいなクソ人間は沢山いる。


 そんな輩は絶対にエリゼに絡んでくる。

 エリゼが利用できそうな力を見せたり、女らしい行動をしていれば、絶対にそうなると相場は決まっているのだ。


 そいつらに復讐すればいい。


 やられたらやり返す。

 別に自ら罠にハマり——そう、自らやられにいっても問題ないはずだ。


「♪」


 エリゼはどうすればこの世界を楽しめるのか——どうすればこの世界を、エリゼにとっての楽園に変えられるのか。


 答えは得た。


 復讐にまみれた世界にすればいい。

 復讐相手を探すために冒険をする。

 これがエリゼの幸せだ。


 そういえば、復讐の口実を無理矢理——ではなく、いい感じに作れそうな奴がまだ近くにいる。

 それは。


「スラァ! スラァアアタアアアアアア!!」


 と、聞こえてスライムマザーの鳴き声。

 同時。


 ドンッ!

 ドンッ! ドンッ!!


 と、さらに聞こえてくる音。

 同時、グラグラと揺れる見張り台。

 さらに門からは木が軋む音が聞こえてくる。

 その理由は簡単だ。


 エリゼの大切な同郷の友人(笑)である町長を殺し、住民を殺し尽くした悪虐非道なスライムマザーが、門に体当たりしてきているのだ。


 きっと、その狙いはエリゼとクレハに違いない。


 恐ろしい。

 大量の命を奪っただけでは、まだ飽き足らないというのか。


「許せないっ! 私の故郷の人達を皆殺しにしてっ!! 私はお前を絶対に許せない……許さない!!」


 言って、エリゼは剣を構える。

 復讐だ……これでまた、楽しい復讐をする口実ができた。

 そして、こいつを倒せばレベルの糧にできる。

 なんせかの有名なマザー級モンスターなのだから。

 さて——。

 

「お前がどんなに強いとしても……お前のことは、私が殺す!!」

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