女上司の悲哀(女性モノローグ)

 ねえ? 分かってる?


 私が、どんな気持ちでこの企画をあなたに任せたのか。


 本当なら、自分でやりたかった。


 私が、あなたと組みたかった。


 でも、私には私にしかできない仕事があって、それは、あなたのサポートじゃなかった。


 もちろん、無理を通せば、他の仕事を他の誰かに任せて、あなたと仕事することだって、できた。


 でも、それはあまりにも無責任で、そして私は自分勝手に仕事を放り出せる性格じゃない。


 せめて、あなたのサポートが、男の人なら、少しは安心できたのかしら。


 いえ、冷静に考えて、彼女を選んだのは、正解。


 この企画を成功させるために、あの子の能力は役に立つ。


 それに、あの子にはちゃんとお付き合いしている人もいるって、実は知ってる。


 あなたが、あの子に持っている感情は、単なる後輩としての好意だって、分かってる。


 ……でも、つらいのよ。


 あなたが、仕事が順調だと報告して来る時に、その隣で誇らしげに微笑むあの子を見るのが。


 私が、誉めたりねぎらったりしたあと、あの子と目を合わせて、うなづきあう、あなたを見るのが。


 仕事以上の関係は、二人の間には何もない、って、分かってる。


 でも、こんなに素敵なあなたに、あの子がいつ男性として好意を持つかもしれないと、いつも怯えている。


 いっそ、全てが終わるまで、あなた達を見ないようにすれば。


 ……いえ、仕事を全て任せても、進捗しんちょくを把握するのは上司としての私の仕事。


 何より、私が見えないところで、二人がどんな仕事をしているのか、知らない方が、ずっとつらい。


 せめて、私の目の届く場所で、私の手の内で。




 ……いっそ、この気持ちを伝えられたら。


 あなたを独り占めしたいと、他の誰の隣でもなく、私の隣にいてほしいと、そう伝えられたら。



 ねえ? 分かってる?


 私が、心を切り刻まれて血の涙を流しながら、穏やかな微笑みであなたに、「頑張って」って伝える、苦しみを。


 それでも、嬉しそうに笑うあなたが、ただその笑顔が見たいから、必死でいるって。


 その気持ちを忘れるために、ひたすら仕事に励んで、それをあなたが尊敬の眼差しで褒め称える時の、どうにもならない、哀しさを。


 でも、やめられない。


 だって、あなたがそうやって、私に向けてくれる笑顔も、言葉も、どれもこれも、私の宝物なんだもの。



 大好きよ、あなたを。


 ……あなたを、愛してるの。




 だから、今日も、報告を待っているから。


 必ず、私のデスクに、来てね。

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