不倫

連喜

第1話 父の思い出

 俺の父親は不倫をしてた。いや、不倫なんて生易しいもんじゃなくて、長く援助している愛人がいた。そっちにも子どもがいたから、俺には母親の違う兄弟がいるみたいだ。

 でも、会ったことはないし、詳しいことはわからない。あちらの家庭はすごく貧乏だったみたいだけど、子どもは成績優秀だったみたいで、公務員試験に受かったそうだ。だから、今は安定した暮らしをしてると思う。公務員だから、書類で江田という苗字を見て俺とわかるかもしれない。そしたら、家の住所もばれてしまう。そんなことを考えると、俺は地元には戻りたくない。あちらの家族に物凄く蔑まれている気がするからだ。


 俺のおじさん、おばさんも全員不倫していて、俺はそれが当たり前という環境で育った。こういうのは普通ではないのか、こういう家庭もよくあるのかはわからない。

おじさんなんかも、バツイチで愛人もいて、嫁、元嫁、愛人それぞれに子どもがいる。社会的地位のある人だから、その人の場合は、金と地位があるから愛人を持てるタイプだったと思う。顔はまあまあイケメン。性格は、本当に口だけの人で、俺にも「今度〇〇してあげるよ」、「うちに遊びに来なよ」と言いながら、その約束が果たされたことは一度もなかった。


 おばさんたちも、未婚のまま男を何人も変えていた。おばさんたちは子どもから見ても美人だった。相手が著名人だったこともあったけど、そういう人は既婚者だった。独身の人たちは大したことはない普通の人ばかり。サラリーマンとか、まともな人はいなかったと思う。モテるってことに意味があるんだろうか。子どもながらに疑問だった。


 おじさんたちが浮気しても、奥さんが我慢して、離婚しなかった家庭もあったけど、大体みんな離婚歴があった。


 俺が小学校くらいの頃までは、親も親族の恥部を隠していたが、高校生くらいになると、母は俺にそうした話をするようになった。それに、俺がいる前で、両親が愛人のことで夫婦喧嘩をしたりしていた。そういう汚い姿を見ておいた方がいいと思ったに違いない。実際は、それが夫婦のリアルな姿なんだろうけど、おかげで俺は今でも独身だ。兄はバツ2。育った家庭環境によって、子どもの将来の夫婦関係が左右されてしまうんだろう。


「うちにだって、お金ないのに、何であの女に援助してるの!自分で働けって言ってやんなさいよ!」母は金切り声をあげた。

「病気なんだよ!それに、俺の金をどう使おうと勝手だろ?」

「お兄ちゃんへの仕送りどうすんのよ!」

「バイトして通えって言えよ」

「無理でしょ?大学だって忙しいのに!」


 兄は国立大学に進学したが、有利子の奨学金を借りて、寮に入っていた。母は貴金属を質屋に持って行って金を作ったり、さらに他所に働きに出ていた。そこで稼いだ金は兄への仕送りに消えていった。でも、金の使い方が下手で、始終、無駄遣いをしていた。

 親父は社長だったけど、借金が沢山あって、そろそろ破産しそうだと母は言っていた。自宅も借金の担保に取られていた。


 俺は兄ほど出来がよくなくて、私立の大学に進学したけど、入学金が払えなくて、親せきから借りたほどだった。俺も家計が苦しいのがわかっていて、受験が終わったらすぐにバイトを始めた。



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