30話 思ってたんと違う!!!!
その後、一時間も経たずに王太子の別荘に入った。
外からはそこまで特徴的な造りには見えない。
平原を見下ろす高台に作られた二階建ての屋敷。
真っ白な外壁と、ブルーの瓦屋根が確かに美しいといえば美しいが、一階部分のほとんどが塀というか格子に囲まれているから、外からはよく見えない。
正面玄関を挟んで、この建物は西棟と東棟に別れているようだ。玄関から伸びる階段を上がれば二階はすべて寝室だった。
女性陣が喜んだのは、1階だ。
モネやロゼだけではなく、シトエンも感嘆するほどの内装だった。
ポイントに青を使っているのだが、そのほとんどが〝白〟。
その代わり、調度品は色彩豊かな焼き物だったり、色とりどりの花がいたるところに飾られていた。
カーテンには複雑な模様のレースが使用されていたり、照明用のガラスのほやも、凝った繊細なデザインをしていた。
女性というか……王太子妃を意識した別荘なのかもしれない。
王太子が、王太子妃を喜ばせるためだけに作らせたのだと思うと、にやにやが止まらない。
庭もそうだ。
なるほど、王太子妃が好きそうだ。
外側からは全く中の様子がわからなかったのは、開放的なデザインになっているためだ。一階の東棟全面から庭を眺められるような造りになっており、もし壁がなければ外側からもこちらの様子が丸見え状態だ。
そして。
西棟一階はリビングになっており、ソファで過ごしながら見事な庭が一望できるようになっていた。
四季折々で咲く花が違うのだろう。
今はバラが見事だが、他にも多種多様な花が植えられている。
また、大きくとられた池には緋鯉が泳いでいて、ヴァンデルはなぜかそれを気に入っているようだ。俺に熱心に説明してくれるが……。魚は……食う以外興味ない。そういえば、王太子も魚がどうのといっていたな。……え。これ高価な魚なのかな。
東棟はというと、透明度の高いガラス窓を使用していて、バルコニーから庭へ出られるようになっている。
そこにあるのは……。
「プールだ!!!!!」
ガラス張りの観音扉を、ばあああん、と開けてロゼが飛び出すから、ラウルが「ひっ」と悲鳴を上げた。
俺だって心臓が痛かった。お前……。ガラス扉は丁寧に扱えよ……。高価なんだぞ……。
ロゼは木製のデッキを駆けていき、プールの端っこに立って中を覗き込んでいる。
俺たちもあとをついて外に出るが……。
日の光をプールの水面が反射して眩しい。
デッキにはいくつかプールチェアが並び、白いパラソルも立てられていて、日陰も用意されていた。
「シトエンさま、ここで遊ぼう! 一緒に入りましょう!」
ロゼがシトエンにつきまとって、ねだるねだる。
「だめよ、ロゼ。シトエン様も疲れてらっしゃるのだから。まずは荷ほどきして、シトエン様が休憩なさる場所を用意して……」
モネがたしなめた。
ロゼ、がんばれっ。荷ほどきぐらい、俺がやる!
「えー……」
しょぼんと肩を落とすロゼを見て、シトエンが取りなすように姉妹を見た。
「では、すぐに荷物を運び込んで……。準備ができたらプールで遊びましょう。ね? いいですか? サリュ王子」
「もちろんです!!!!!!!」
勢いよく頷いたのだが……。
その一時間後。
「どうした、サリュ。元気がないな? みんな楽しそうだぞ」
ビーチチェアーに座り、顔を覆って蹲る俺にヴァンデルが声をかけてくる……。
「想像してたんと違う!!!!!」
それしか言えん!!!!!
なにしろ、シトエンの水着がおもってたんと違う!!!!
プールの中では、胸の谷間剥き出しのモネと、やけにふりふりデザインの水着を着たロゼが水のかけあいっこをして遊んでいて……。
その側で、水しぶきがかかったシトエンが、楽しそうに笑っているのだけど。
「なんでシトエン、長袖着てるの⁉」
そりゃ中に水着らしいものが透けてみえるんだけど、その上から長袖着てるんですけど!!!
「日焼けに弱いとか言ってたじゃないか」
「そうですよ。シトエン妃、すぐに赤く腫れちゃうから、ああでもしておかないと。それに竜紋のこともあるんじゃないですか?」
ラウルまで呆れたように俺を見下ろす。
忘れてた……。竜紋……。そうだよ、竜紋……。
他人に見せちゃいけないんだよ……。
「それにしても団長。楽しそうですね、女子ズ」
「僕たちも楽しもうじゃないか、親友!」
「だから抱き着くなっ、暑っ苦しいんだよ!」
「プール入ったら涼しいですよ、団長。ねぇ、ヴァンデル卿」
「そうだぞ、ラウルの言う通りだ。ささ、プールに……っ」
「野郎同士でプール入って何が楽しいんだっ! やめろ! 俺は行かん……。どわー!」
いきなりラウルとヴァンデルに抱えられてプールに放り込まれたのだが。
もちろん、奴らもプールの底に沈めるという仕返しをしてやった。
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