だんだんじょんじょん〜ハズレSSR職業のキャプテンは意外とチトれるらしいよ〜

赤里キツネ

第1話 ばらして売るしか

「お金が……ない……」


ひもじい。

両親に先立たれ。

残してもらった貯金で食いつないでいたけれど。

ついに、底が見えた。


仕方がない。

また祖父の遺品を質屋に……


祖父は、冒険家だったらしい。

世界を周り、色々な物を収集していた。

僕は、そんな祖父の話を聞くのが好きだった。

その祖父の大切なもの……


だが、背に腹は変えられない。



分かりやすい貴金属、宝石といった物はない。

良くわからない仮面とか、錆びた剣とか。


唯一分かりやすいのは……壊れた異世界船。

窓は割れ、扉は壊れ、液晶パネルは割れ。

ボロボロの船だけど。

昔から、これに乗るのは好きだった。

いつかこれを直して、冒険できたら……そんな夢もあった。



うん。

現実を見よう。



壊れた船でも、専門家が解体すれば、有用なパーツがあるかもしれない。

今月分の学費と、食費くらいには……いや、もう少し夢を見たいところだ。


もう学校をやめてバイトに専念すれば、食いつなぐ事はできそうだけど……



「さようなら」


僕は、夢に別れを告げる。



『確認します。何故離別の言葉を使うのですか?』



不意に。

異世界船が、喋った。


「え……?」


『私に乗って冒険をしたい。貴方はそう仰っていた筈です』


「……そう……だけど……もう、生活が続かない。才能もないし……」


というか、壊れていたんじゃなかったのだろうか?

今まで、話したことも、ランプがついた事も、なかったのだけど。


「君を直すお金も……無いんだ」


『不可解。損傷は自己修復機能の範囲内です。修理にお金は必要ありません』


え。


「直せるのかい?」


『修復モードを実行します』


ジジジ……


異世界船は光に包まれ。

そして。


トラックくらいの大きさだった船は、僕がぎりぎり乗れる程度の、球形の乗り物に変わった。

傷はなくなり、新品同様だ。

異世界船ってこんな機能あるの!?


『マスター、乗って下さい』


「……動くのか……」


異世界船。

もし途中で故障したら。

異次元の間に消える事になる。

が……


どうせ、明日も知れない身。

乗ってみよう。


おっかなびっくり。

異世界船へと、乗り込んだ。


--


異世界船の操作は、旧式、新型、どちらも授業で習っている。

が。


「操作パネルは?αダイヤルとβダイヤルは?どうやってチューニングするの?」


『マスター。そういった玄人の嗜好は、慣れてからお願いします。まずは私にお任せ下さい』


いや。

チューニングをオートでできるって、相当高機能なのでは。

最新型の高級機ならできると聞くけど。


「あと、αとβの他に、γって数字があるけれどこれは?」


異世界との距離は、α軸とβ軸で決まる。

これは距離だけの話で、実際には経路が異なる為、同じ座標でも同じ世界には二度といけないらしいけれど。


『距離ですね』


距離かあ。


『チューニングが完了しました。出発します』


ジジジ


窓の外の風景が、歪む。

異世界転移だ。

そして……


ついた。


α3、β0。

かなり低レベルのダンジョン。

……γ56?


『敵性生物は確認できません。ここで資源を回収し、マナを稼ぎましょう』


「そ、そうだね」


ダンジョンへと、降りる。


ふよ……


船から、球形の物体が射出。

僕の肩に乗る。


『初回サービスです。価値が高そうな資源を教えるので、それを持ち帰って下さい』


球体が喋った。

船のAIが分離できるのか。

というか。

どういう原理で浮遊したのだろう?


『反重力の力場で浮遊しました。マナテクノロジーとしては初歩です』


いや、反重力を利用したエアカーとかあるけど、あの装置ってそこそこ巨大だったような。

……まあ、マナテクノロジーだし、そんなもんかな。


「君は、爺ちゃんの物だから、それなりに古いよね。やけに新しい技術が使われているような」


『私は地球上で作られたものではありません。ダンジョンで生成されたアーティファクトです』


……なるほど。

魔法の剣や、魔法の銃といった、武具がダンジョンで見つかる事がある。

中には、地球の科学では再現できない、超常の品があるとか。

そういう異世界船もあると聞く。

……そもそも、最初の異世界船は、次元の裂け目から落ちてきたという説もあったりする。

それがマナテクノロジーの基礎になったとか。


船の指示に従い、瓦礫にしか見えないものを、アイテムボックスに入れる。

僕のアイテムボックスは、大きめの登山リュック程度。

すぐにいっぱいになった。


帰還。


「……レベルアップだ」


レベルが、2から4に上がった。

今まで、授業でダンジョンに潜ったり、魔物を倒したりしても、上がらなかったのに。

ソロで行ったから、経験値が多かったのか?


『お疲れさまです。マナ変換を行ってきて下さい』


ダンジョン内の物は、有用物であればそのまま利用するが。

ただの瓦礫は、マナに変換を行う。

異世界との次元距離の差が、エネルギーとなるらしい。

変換コストとの差分が、マナとして抽出される仕組みだ。


変換されたマナは……6,000!?

1マナで1,000円くらいなので。

6百万円の稼ぎになる。


……わーい、生活できる。

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