ロンドンを目指す

 ロンドンを目指していたリアムたちはラジオ放送でロンドンの異変を知った。

 市内は謎のガスに覆われ、脱出も困難な状況になっている。

「信じられない事が起きてるよ。ロンドンは厳戒令だって」

 スマホを見ながらロジャーが興奮気味に言う。

「この渋滞はそれのせいか?」

 ロンドンに繋がる道は進めなくなっている。リアムたちも渋滞に巻き込まれ一時間前から動けない。

 低いエンジン音が聞こえて見上げると上空にユーロファイター・タイフーンの二機編隊が通り過ぎた。タイフーンの向かう先はリアムたちと同じくロンドンの方だ。

「どうやらフェイクニュースじゃなさそうだ。ロンドンでは本当に何かとんでもないことが起きてるようだ」

 スマホで現在のロンドンの様子を映し出したネット映像を観ながらリアムは言う。

「何か得体のしれないモノが市民を襲っている。ありえない。これも追っている聖剣が関係してるのか?」

 リアムは後部座席のフルドラにスマホの動画を見せた。

「ワイルドハントが起きてる」

「ワイルド……なんだって?」

「エクスカリバーを持つ者が死者の軍団を指揮する。そしてこの狩猟軍団は、行く手にいる生者のすべてを狩り尽くすまで狩りを止めない」

「つまり、今イギリス陸軍が交戦しているのはゾンビの群れってわけか?」

「人は喰わないし、伝染もしない。亡霊と呼ぶ方が正しいかも」

「こいつは何だ? 他のと違うみたいだ」

 リアムは亡霊の群れの先頭にいるのは甲冑とマントを羽織った異形の騎士を指さした。

「四騎士のひとり」

「それは有名なのか?」

「あんた、黙示録の四騎士って知らないの?」

 運転席のロジャーの言葉にリアムは眉をしかめる。

「俺だって黙示録は知ってるし、四騎士もわかる。スーパーナチュラルもよく観てた」

「スーパーナチュラル?」

「まあ……シーズン7までだったけどな」

「おそらくロンドンの何処かで行われている儀式では四騎士を象徴する何かを依り代にして騎士たちを呼び出している。その中心にあるのはエクスカリバーに違いない」

「儀式の場所は察しがつく。ロンドン塔だろ?」

「たぶん」

「だが重大な問題がある。ロンドンに繋がる道路は封鎖されて市内に入るのは不可能だろう。それに俺に亡霊の相手ができないぜ。これはバチカンかウィンチェスター兄弟の仕事だ」

「手伝ってくれないの?」

「やれる事とやれない事がある。悪いがさっきのような化け物は専門外だ……」

 フルドラは悲しそうな表情でリアムを見つめた。それを見ていると姉のエマに請われている気持ちになってしまう。ここで彼女を見捨てる事は、エマをもう一度見捨てる事と同じではないだろうか? エマを失った罪悪感がリアムの心を覆い尽くした。これから逃れる方法は一つしかない。

「わかったよ! まだ手を貸す」

 フルドラは安堵の表情を見せた。

「……ありがとう」

「いいさ、前金も貰っているしな。だが少し知恵を絞らないとな。何しろロンドンに続く主要道路は全て封鎖中だ」

「道路を使わなければいい。山もあれば丘もある」

「悪いけど、これはミニ・クーパーだ。ランドローバーのディフェンダーでもトヨタのランドクルーザーでもない。イギリス生まれだがドイツで作ってる小型車だ」

「……悪かったね。でも小型車の方が地球のエコに役立ってる」

 ロジャーが不服気味に言った。

「いや、ロジャー・ラビット。侮辱してるわけじゃないんだ。俺が言いたいのはこの車で悪路を走るのは無理だって言ってるんだ。そんな用途に造られていないからな」

「それについては私にいいがあるわ」

 フルドラは左に見える森も指さした。

「あの森に向かって。魔法をみせてあげる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る