第14話 エルフの報復2

 黒塗りのSUVが、ひと仕事終え、隠れ家に向かって走っていた。

 済ました仕事は簡単。

 嗅ぎまわっていた連中にちょっとした脅しをすることだ。

 大概の相手は銃弾を撃ち込まれたら、身の危険を感じて手を引くことだろう。地元警察は抱き込んであり、地元の若者の行き過ぎた悪戯として処理され、大事にはなることはない。


「そういえばさっきの車、007の映画に出てきたやつじゃなかったか?」

「そうか、道理で見覚えがあるわけだ」

「映画では防弾仕様だったのに、あれは9ミリで簡単に撃ち抜けたな」

 そう言って運転席の男たちは笑いあった。


 イギリスの道路事情は悪い。

 財政難を理由に各地の道路補修が行き届いていないのだ。特に地方の田舎道は、陥没した状態で放置されている場合も多い。

 車は、荒れたアスファルト道を注意深く進んだ。

 もう少しで監視用に使っている一軒家に到着する時だった。

 道の真ん中に誰かが立っているのが見えた。


「なんなんだ、あいつは?」

 車はゆっくりと速度を落とすと女の目の前で停まる。

 同をを塞いでいたのは、見覚えのある女だった。つい先ほど、脅しの銃撃をしてやって相手のひとりだ。


「あいつらの車を潰したのに、どうやって先回りしたんだ?」

「わからんが、思い知らせてやったほうがいいな」

 男たちはそう言うと、車から降りた。


「なんの用だい? お嬢さん」

「あなたたちね……私の車をのは」

 フルドラは、落ち着いた声で言う。

 その言葉に男たちは顔を見合わせた。

「言いがかりはやめとけ」

 男たちは持っていた銃を取り出し、これ見よがしにチラつかせた。

「こいつが見えないか?」

 そんな脅しもにも動じず、フルドラは、どこからか弓矢を取り出し構えた。

 1ヤード程のショートボウで弓幹の形状を複雑に湾曲させた奇妙な形だった。

 弓矢を構えたその様子を見た男たちが笑い出す。

「おいおい、冗談だろ? そんな弓矢で銃に勝てると思ってるのか?」

 構わず、フルドラはの弓の弦を引き絞っていく。

 優位を確信していた男の一人が、フルドラに向かって威嚇の為に銃を発泡した。

 当てるつもりはない。銃弾がかすめれば焦って逃げ出すだろうと踏んだのだ。

 9ミリの弾丸がフルドラめがけて飛んでいく。

 だがフルドラは引き金が引かれるより僅かに早く矢を放っていた。

 放たれた矢は、鉛の銃弾を砕き、男たちの横をかすめた後、勢い止まらず、SRVのフロントガラスに突き刺さった。

 驚く男たちを後目にフルドラは次の弓矢を放つ。

 矢は男の持っていた拳銃を弾き飛ばした。

 得体の知れない驚異を感じた男たちは慌てて車に乗り込んだ。

 ハンドルを握り、アクセルを踏み込もうとした時だ。

 運転席のドアが強引に開かれ、ハンドルを握った男に頭に銃口が突きつけられた。

「おっと、どこに行くつもりだ?」

 リアムが男たちに言った。

 SRVの後ろでは、ロジャーの運転するミニクーパーが停まっている。運転席では、ロジャーがハンドルを握りしめて様子を見守っていた。

彼女フルドラ……さっきまで後ろの席に乗っていた筈なのに、なんであそこにいるんだ?」

 困惑しながらロジャーがつぶやく。


 リアムは男の持っていた強引に拳銃を奪った。

「P228か。いい銃使ってるな」

 そう言うリアムは奪った拳銃を自分のポケットにしまい込む。

「お前ら、おかしな真似はするなよ。俺の相棒は、お気に入りの愛車を廃車にされて、中なんだ」

 リアムはそう言って車の前を指さした。そこには車に立ちふさがるように弓矢を構えたフルドラがいた。


「さて、お前ら誰に雇われているんだ? 何故俺たちの車にあんな真似をした。脅しのつもりか?」

「銃の試し撃ちだよ」

「面白いことを言うじゃないか。これでもそう言ってられるか?」

 リアムは銃を下に向けると引き金をひいた。床のフロアシートに穴が開く。同時に大きな銃声が車中に響き、男たちは身をこわばらせた。

「気は変わったか?」

「くだばれ!」

 反抗的に答える男たちに、口を割る気はないらしい。

「リアム」

 その様子を見ていたフルドラがリアムに小さな陶器製の小瓶を放り投げた。

「それを振りかけて。話す気になるわ」

 半信半疑でリアムは、瓶の中の何かを男に振りかけた。

 入っていたのは奇妙な金色の粉だった。

 振りかけられた男たちの目が虚ろになり、明らかに様子がおかしい。

「名前は?」

「サイラス」

「ジョン」

 男たちは、すんなりと自分たちの名前を答える。

「驚いたぜ。妖精の自白剤ってわけか」

 これならどんな質問でも答えそうだと思ったリアムは質問を続ける。

「どちらでもいいが……そうだな、サイラス」

「ああ」

「お前に質問に答えてもらおうか。誰に雇われたんだ?」

「雇い主は知らない。俺たちは会社に命令されて派遣されてきただけだ」

「命令?」

「あの土地開発現場を嗅ぎ回る者がいたら、脅して追い返すように言われた」

「会社ってなんだ?」

「ブラック・シーという民間軍事警備会社だ」

 その名前を聞いてリアムは愕然とした。

 リアムのその様子にフルドラが気づく。

「何?」

 言いにくそうリアムは口を開く。

「ブラック・シーは……ブラック・シーは、俺が所属していた会社なんだよ」

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