第12話 警告

 その頃、リアムたちは、コーンウォールの田舎町唯一のレストランにいた。

 ロジャーがマルジン・ウィスルトなる組織か個人が掘り出された聖剣を持ち去ったところまで突き止めた。

 だが、肝心のマルジン・ウィスルトの正体が掴めない。

 フルドラの話では、妖精たちの間では有名で、妖精にとって重要な物を奪い去る事で知られている。

 しかし、それ以上の事は、フルドラにも情報はない。

 そこで、リアムは、古くからの友人に連絡をとることにした。


 エリック・キャンベルは、この手のこと精通した友人の一人だ。

 リアムを自身が経営に関わっている民間軍事警備会社にスカウトした張本人であり、元ネイビーシールズのコネクションから軍や、CIAにもツテがある男である。

「よう、リアム。どうした? 休暇に飽きたのか?」

 エリック・キャンベルは、砕けた調子でリマムに言った。

「そんな、ところです。今はちょっとした小遣い稼ぎをしてます」

「仕事をするならうちでやれ。待遇は前の通りだぞ」

「いや、そんな危険な仕事じゃないんですよ。ただ無くし物を探す手伝いをしているだけでね」

「……へえ」

 キャンベルは意外そうに言った。

「ところで、ちょっと大尉のコネで調べて頂きたい事があるんですが」

だ。今は、立派な実業家だぞ」

「了解」

「まあいい。で、なんが? 調べてほしい事って」

 リアムは用件のマルジン・ウィスルトの事を切り出しす。

 キャンデルはしばらく沈黙した後、話し始めた。

「……わかった。少し調べてみる。何かわかったら連絡する」

「恩に着ます」

「いいさ。だが、リアム……何に関わってるかしらんが、気をつけろよ」

 そう言って電話は切れた。

 キャンデルは、調べてみるとは言ったが、マルジン・ウィスルトについて少なからず、何かを知っているようだった。

 だが、何故、何も言わない?

 リアムは、それが気になった。


「何か分かりそう?」

 隣に座るフルドラが言う。

「……いや、今の時点では何も。だが、調べてくれるそうだ。あとは、他の奴にもあたってみるよ」

 そう言ってリアムはスマホを使って心当たりの面子にEメールを送ろうとする。

 しかしその時だ! 突如、店の外から銃声が鳴り響いた!


 リアムは、反射的に身を伏せる。

 状況を把握できず、唖然としているフルドラとロジャーを引っ張る。状況を把握していないのはリアムも一緒だが、銃声に反射的に身体が動いた。

 その後、続けて数発の銃声が聞こえてくる。

 リアムは手に入れていた銃を抜くと、窓の外の様子を伺った。

 見ると店の外に停めてあった車のフロントをサイドのガラスが割れていた。銃声は車に撃ち込まれたものらしかった。

 その横を使い古したハイラックスが走り去っていく。

 リアムは銃を構えながら、レストランの外へ飛び出した。走り去っていくハイラックスにFNブローニングを向けて狙いをつけたが、車は、すでに射程外に遠ざかっていた。

 リアムは、報復は諦め、銃を右横腹のインサイドホルスターに収めた。


 撃たれた車を見ると窓ガラスとフロントガラスだけではなく、フロントのボンネットにも銃痕が数発ある。

 念入りにやってくれるぜ

 リアムは思った。


 レストランから出てきたフルドラがリアムの横に立ち、変わり果てた車を見つめる。

「なんてこと……」

 今まで感情を殆ど表さなかったフルドラの表情は僅かだが変わっていた。

 微細な表情だが、怒っているのはわかった。

「オイルが漏れてる。エンジンに撃ち込まれたみたいだな。修理には相当手間がかかりそうだ」

 フルドラは、メタリックレッドの愛車のフロントにそっと手を触れる。

 車は、アストンマーチンのDBSスーパーレッジェーラは007の最新作にも登場した車だ。

 ここまで来る間に運転させて欲しいと何度か懇願してみたが、フルドラは、ハンドルを握らせてくれなかった。

 リアムの運転を信用していなかったというより、どうやら、このアストンマーチンに相当、入れ込んていたようだ。


「何故こんな事を……私は、この町の人間がここまで酷いとは思わなかった」

 フルドラが抑えた口調で言う。

「いや、違う……」

 リアムの言葉にフルドラが顔を向けた。

「こいつは、警告だ」

「警告?」

 フルドラは小首を傾げる。

「掘り起こした聖剣についてのはやめろておけって事だ」

 リアムは冷静な口調でそう言った。

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