一生働きたくない俺は養ってくれそうなヤンデレ美少女を攻略することにした

夜見真音

第1話 ヤンデレに告白された

 人間はラクして生きられるのならば、それに越したことはない。

 苦労することこそが美徳だと信じる人間は多く、まあ否定するつもりはないが、俺からしてみれば無駄に心身すり減らしてご苦労さまって感じ。


 はぁ~ヒモになりてぇなぁ。

 一生働きたくねぇ。


 ……という、常日頃から想っている心の叫びは、ひとまず置いておいて。

 俺は今、校舎裏で一人の女子と向き合っている。


「あ、あの……いきなり呼び出してごめんね、明也くん」

「いや、構わないよ。どうせ放課後なんて暇だし」


 目の前で俺を見上げるのは、クラスメイトの安城あんじょう雛乃ひなの

 さらさらのロングヘアーと整った小顔。細身でありながら、そこそこ大きな胸。背は低くないものの、どこか小動物っぽい雰囲気。


 率直に言って安城は美少女だ。

 クラスの連中も、そこだけは認めている。


 彼女が俺を呼び出したのは、まあ十中八九、告白のためだろう。

 自慢じゃないが俺はモテる。整った顔と170センチ後半の身長、そして運動も勉強も平均以上できるとなれば、モテないはずがないのだ。大抵の女は男の見かけ上のスペックしか眼中に入れないからな。


「あのね、明也くん……今日は伝えたいことがあるの」

「そうなんだ。その前にさ、何か飲ませてくれない? 急いで走ってきたから喉乾いてさ」

「あ、うん。いいよ」


 安城はこくこくと二回頷く。

 走ってきたというのは嘘だ。そして喉も大して乾いてない。

 ただ安城の適性チェックをするために、俺はポケットを探るふりをする。


「やべ、そういえば今日は財布を家に忘れてきてたわ」

「あ……じゃあ私のお金を使って」

「いや、さすがに悪いから遠慮させてもらうよ」

「ううん、いいの。私のために時間を割いてくれたお礼に飲み物ぐらいは奢らせてほしいな」

「そっか、サンキュー。安城は優しいな」

「えへへ……そんなことないよ」


 照れたのか頬を朱に染める安城。

 どうやら他人に金をやることに抵抗は少ないみたいだ。相手が俺だからかもしれないが、そうだとしても俺に金を恵んでくれることには変わりない。適性ポイント+10点。


 安城が財布から取り出した500円玉を手で弄びながら、校舎裏の近くにあった自販機の前に立つ。適当にミネラルウォーターを買って一口飲んでから安城のもとに戻る。


「じゃあ改めて。安城はどうして俺をここに呼んだんだ?」

「あの……告白、したくて……」

「告白か」


 安城の目的は案の定だった。

 きっと俺はこれから『好きです! 私と付き合ってください!』とでも言われて頭を下げられるのだろう。


 満更でもない気分だ。ぶっちゃけ安城の容姿は好みだし、それに適性も十分だと判断した。何の適性かというと、俺を将来養ってくれるかどうか。つまりヒモを飼う宿主としての適性である。


 安城は緊張しているのか、大きな瞳を揺らし潤ませる。


「き、緊張するなあ……」


 囁くようなウィスパーボイスが、いつも以上にブレス多めで漏らされる。

 そして、安城は勢いよく頭を下げて告白した。


「好きです! 私と愛情を深めてセックスして明也くんの子供をたくさん産ませてください!」

「ええ……?」


 とんでもない告白されたわ。

 いや、まあ……愛の告白であることには変わりないけど、それでもスケールが大きすぎねぇ……?


 俺が何を言おうか迷っていたら、安城は顔を真っ赤にしながらまくしたてる。


「まずは身体の相性を確かめよう? そこの草の茂みで青姦して、お互い同時にイケるかどうか検証するの!」

「いきなりセックス!? しかも学校内で躊躇なく試そうとするな!」

「だって恋人には身体の相性も重要でしょ? お付き合いする前に同時にイケるぐらいの相性の良さがあるかどうか検証するのは大事だと思うの。……とは言いつつも、相性良いことは決まってるけどね。私と明也くんは生涯を共にする運命だし」

「そんな運命あるのか……?」

「あるよ。絶対にある。仮になくても作ってみせる。愛は因果律さえも超える究極の魔法だから。さあ、青姦しよう!」


 安城に手を取られてぐいぐい引っ張られる。

 いくらなんでも学校の敷地内で青姦するわけにもいかない。誰かに見つかったら退学沙汰だ。


 意外と強い力を持つ安城の手をなんとか振りほどき、ひとまず落ち着かせる。


「冷静になってくれ。別にこんなところでしなくてもいいだろ。恋人になったらいつでもできるんだしさ」

「え……それじゃあ……?」

「ああ、俺は安城の告白を受け入れるよ」

「ほ、ほんとう……?」

「本当。だって俺……前々から安城のこと気になってたし、ぶっちゃけ可愛いなって思ってたから」


 わざとらしく照れて頬を掻きながら目を逸らす俺。

 そんな安っぽい演技にも気づかないのか、安城は感極まったように飛び跳ねる。


「やった、やった! 明也くんと恋人っ! ああ、嬉しいなっ!」

「めっちゃ喜んでるな……」

「だって初恋が叶ったんだよ? 誰でも喜ぶよ!」


 初恋だったのか。

 そりゃ……災難だな。

 俺はキミのこと、将来養ってくれそうな体の良い宿主としか思ってないのに。


 少しだけ罪悪感が湧いてくるものの、順風満帆なヒモライフのためならば乙女の恋心さえも踏みにじろう。だって一生働きたくないし。


 喜ぶ安城をちょろい娘だと思いつつ、俺は初めてできた恋人の肩に手を置いた。


「これからよろしくな安城……あ、雛乃って呼んでもいいか?」

「うん、いいよ。これからずっと、よろしくね明也くん。ふふ……」


 瞳のハイライトが消えた安城が妖艶に笑う。

 クラスの連中が陰口するように、安城は間違いなくヤンデレだ。

 だからこそ上手くコントロールできれば、ヒモ男を一生養ってくれる宿主にすることができる。


 俺は彼女の愛の重さにつけ込むつもりでいた。

 だけど、この時の俺は気づいてなかったんだ。


 安城が、俺の予想以上にヤバい女だということに。

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