第13話 賢者の掘り出し物
「うんざりするほど見てきたアレと違う」というだけで、本質はさほど変わらなくても何割増しで輝いて見える心理的バグが人類にはあるらしい。
* * *
俺の今の彼女は欲のない女だ。
ブランド物やジュエリーに興味がうすく、趣味は読書と掃除。見栄を張らないところが良い。
そんな彼女の誕生日プレゼントに、俺は昔の絵本を競り落とそうとしている。
お願いされたのではなく会話の流れのなかで、珍しく彼女が欲しいと言ったもの。日本では絶版になっている美麗な絵本だ。
オークションサイトでやっと見つけた。
出品者が提示した最低価格こそお手頃だったが、ほかの入札者があらかた脱落するころには、俺は彼女を無欲だと思うのをやめた。
なお上がり続ける入札額。恋人の望みでなければ誰がこんな値で買うものか。睡魔に襲われ、度し難い連中だと毒づきながら入札すること幾度。
ついに競争相手が一人になった。手強い。
月給の何分の一、と脳裡に数字がちらつく。分母も預金残高(予定)もだんだん減ってゆく。
睡眠時間も。もはや夜明けが近い。
やがて入札額の更新が見られなくなった。
この巨大な数字を打ち込んだのはどっちだっけ?
画面が切り替わる。
「終了しました」と表示。
落札者は……俺だ!
健闘を讃えよう
品物はすみやかに届き、彼女の誕生日に手渡すことが出来た。
彼女は包みを開けて、驚き、信じられないという顔、やがて嬉し涙のにじむ満開の咲顔を見せてくれた。
「もう二度と読めないと思ってた……! ありがとう……」
やがて結婚の準備と同棲をはじめた。
持参したPCを使っている彼女の横を通りかかったとき、目に入ったのは見覚えのあるアカウント。
君だったのか、あのとき最後まで競り合ったのは!
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