ナイトパレード

@jikiba

1話目

第1話

力を手に入れた人間はどうなるのだろうか?私は愚かにも力に溺れていった。

この世界には不思議な力を持った人たちがいる。世間では単に「能力者」と呼ばれている。


私が「能力」に目覚めたのは物心ついてしばらくしてから。「知りたい」と思ったことは何でも知ることができるようになっていた。

「能力者」は多くはないが、珍しくもない。半年前に隣の団地に住む高校生が空気を自在に操る能力に目覚めたらしい。

少年は喜んだ。この能力を使えば学校の宿題もテストも勉強しなくても答えを知ることができると思った。

しかしそうはいかなかった。テストの「答えが知りたくて」も答えはわからなかった。

もっと具体的に考える必要があった。

「答えが知りたい」ではなくこの問題の内容を習った授業を知りたいと思うと当時の情景を鮮明に「知る」ことができた。その日、たとえ自分が居眠りしていて授業を全く聞いてなかったとしても関係なかった。

未来を「知る」こともできなかった。事前に出題範囲を知れればなと考えたが無理だった。

詰まるところ、私は過去を知ることしか出来ない能力だった。


新しい春が来た。入学当初のような緊張もなくクラスに馴染めていた。放課後は毎日のように友達と遊ぶが、門限を破ると親が怖いので辺りが暗くなる前には家路についた。


「ただいまー。」

玄関で靴を脱ぎ、リビングには向かわずそのまま自分の部屋向かうため階段へ――。

廊下にまで聞こえてきたアナウンサーの声にふと足を止める。

近所の銀行に押し入った強盗がいまだに逃走中だと報道していた。防犯カメラの映像も流れた。マスクはしているが髪型も目元もはっきり見て取れる。

「こわいわね。」「あぁ。ろくでもないやつがいるもんだ。」

(お父さん今日仕事休みだったんだ・・・。)

両親の言葉を横目に自分の部屋へ戻った。

最近は大抵のことに関心が無くなっていた。というか関心を持つことが怖かった。

知ろうとすればどこまでも遡って知ってしまう。一度、頭がパンクしそうになってからは物事を「知ろう」と思わないように自然となっていった。


それでもさっきの銀行強盗の件は「知る」ことにした。ちょっとした正義感と好奇心、それと将来の試金石になるかもと思ったからだ。

オレはもう小学生じゃない。今ならもっとうまく能力をコントロールできる。

根拠もないのにそういう風に考えていた。

乗り気になった理由はそれだけではない。

昨年ある法案が可決されたとニュースで言っていた。

犯罪の現場を写真などに撮って押さえる、またな犯人につながる有力な情報を通報すれば謝礼金がもらえるのだ。軽犯罪の通報でも最大3万はもらえるらしい。警視庁の専用ホームページに送信すると事前に登録された口座へ支払われるシステムだそうだ。この春から施行となった。

ベッドに転がりながら思った。


「ちょうどいいじゃん。」


両親が毎年お年玉を貯めてくれている自分名義の口座がある。それを登録しようと決めた。

うまくいけばこれからはいい小遣い稼ぎができるかもしれない。

欲しかったゲームも新しいパソコンもお母さんにお願いしたり、お父さんに頼んでみたり誕生日やクリスマスを待つ必要もない。自分で好きなだけ買えるようになるかも!


「犯人といえば足取りだよな?あいつはどこに向かったんだ?」

報道されていた犯人の顔を強くイメージする。名前は知らない。どこのどいつかわからなくても過去にあった事実はすべて遡って知ることができる。さてどうするか。あまり遡りすぎても意味はない。普段遊んでばかりで考えないようにしていた脳みそをフル稼働させる。

「そうだ。銀行強盗に入った瞬間からを『知れ』ばいい。」

どの事実を遡るかを決めてしまえばあとは芋ずるだ。

自ら【神智】と名付けた能力が発動する。だんだんと強くなる没入感に浸りながら過去を「知る」

「よし!よしよし!」

犯人のことは簡単に知ることができた。ベッドの上で寝ているだけの自分が誰も見つけられない犯人の行動すべてを知っている。神になったような気分だった。

犯人の家は・・・学校から車で10分くらいのところだ。大丈夫不自然なことじゃない。

「お兄ちゃーん!晩御飯たべないの~?あとお兄ちゃんだけってお母さんが怒ってたよー?」

妹がノックもせずに部屋に入ってくる。

「うわ・・・・・なにニヤついてんの?キモ!」

「うるさい!なんでもいいだろぉ」

いつの間にか晩御飯ができていたらしく妹が呼びにきたので一緒にリビングにむかった。

ニヤつきそうになる顔を必死に抑えて、父に話しかけた。

「お父さん、さっきの銀行強盗。おれ見覚えあるよ。」



父は半信半疑だったが、あまりに具体的に話す息子の様子から警察へ通報することにした。

3日後犯人逮捕のニュースが流れた。ニュースが出る少し前に警察からは電話で連絡をもらっていた。


父は「お手柄だったな」と、母も「すごいわね!よく覚えていたわねぇ!と二人ともほめてくれた。

その日はひさびさに家族4人で外食に出かけた。父の口座に謝礼金が入ったようだった。

確信した、この力は使えると。

そして帰り際に思った。

(あれ?それオレの金じゃね??)


この1件のあと口座の登録をした。未成年であるため保護者の同意が必要だったが銀行強盗でのお手柄もあり母を説得することができた。


それからはテレビで報道があった犯人に関する情報は「知る」度に通報していた。

そうはいっても学生の行動範囲は知れている。不自然な範囲にならないように気を付けていた。あんな法律を作らなくてはならない程に犯罪は起こっている。数には困らなかった。


しかしやはり不自然だった。通報頻度と、何よりも正確性が異常だった。

警察は少年が何らかの能力者であることを確信していた。


「―――ねぇ。君。いつも情報ありがたいんだけど、どうしてこんなに正確なのかな?」

新年度も継続していくために必要な書類を受け取りにきたらそんなことを聞かれた。

(最近ちょっと調子乗って通報しすぎたか・・・、気をつけよ。)


「たまたまです。なんかそういう人の様子って少し不審な感じするじゃないですか。そういう人の顔をよく覚えておくようにしているんですよ。」


「―――そうか。なるほど!それはすごい観察力だね!キミ、良い警察官になれるよ!」

その言葉に愛想笑いと会釈で返した。


年の瀬迫る冬、未明に家1軒が全焼する火事があった。焼け跡からは3人の遺体が見つかった。


「仲の良い家族としてご近所でも評判だった。息子さんだけでも助かって良かったわよ」


たいして挨拶したことのないオバサンが知っている風な口調でテレビのインタビューに答えている。


訳が分からない。なんで自分は病院で寝てるんだ?昨日の夜まではいつも通りだった。

晩御飯を食べながら見たニュースで気になった犯人のことを「知り」警察に通報した。

来週の金曜日にはその分の謝礼金が振り込まれて、そのお金で友達と遊んで、妹には漫画を買う約束してて。

「なんでなんだ・・・。なんでわからないんだよぉお!」

あの日のことが分からない。知ることができない。

自分が寝たときから先の経過を知ることができない。いままでそんなことはなかった。

能力がうまく発動しないことに混乱し、家族の死から目を背け体が動く限り室内を暴れまわった。


いい小遣い稼ぎ程度にしか考えていなかった。

人のことは簡単に知ることができる。そして自分が「知られる」ことには無防備だった。

自分の愚かさを何より憎み・悔やんだ。


過去を知ることはできる。だが過去に戻ることはできない。

少年はその夜、決意した。


「殺してやる!絶対にみつけだして!!丸焼きにしてやる!!!」

「オレはだれも信じない!!!誰にも知られないように!!!みんなみんな、監視してやる!!!!!!」

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