鬼才天浄

のらゐぬ

偏執の極み

私は見たのだ神の手を

届く事の無いその手が近づき

私は思わず手を伸ばす

手を伸ばさねばいられなかった

私は神の手に恋をしたのだ


鳴いて喚いて機会を待った

夢物語で神の手に預かれるのだと私は思った

石に座り手足を粉にして挽き潰す

そうして、次の機会を私は待った

力は手にしたと舞い上がって


あぁ、でもわかった

きっと神の手に私の手は届かない

何度でも何度でも手を伸ばさねば

何故?それに何の意味があるのか?


削って、痛めて、泣いて、縋って

正にこれこそ神頼み


頭も白ばむ喪失感

神の手は今遥か向こう さぁ!

顔も白ばむ劣等感

神の手は今眩しく光る さぁ!お前を否定しに来たぞ!!



気力も灼け尽くす瓦礫の元

燦々たる熱さに焼かれ

今日も私は天を見上げる

あの手から逃げた私を

照らす光は赦さない

だから私はただ ずっと……


あぁ……私はやはり

あの手からは逃れ得ぬのだ

どうして? 焦がれようとも燃えるだけの身体を?

今更焼いて、心を裂いて、夢を破いて

その腹の内も 掻っ捌さばいて!!


さぁ!さぁ!!

白く滾る温度に手を伸ばそう

今こそ勝利の風に乗り神の手に!

さぁ!!!

真っさらな頭を捨てて声を挙げろ!

今、こそ神の手は手中にあり!! 


そして、哀れな男の生涯は焦げた。

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鬼才天浄 のらゐぬ @norainuizi_f12

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