見えないから 「耳なし芳一」二次創作
木津根小
1
少し暑い日が射す昼過ぎ、供の者と、ある一人の女が居た。
女は髪を上げ、少し落ち着いた綺麗な着物を着ていた。
供の者は筋肉質の男で、軽装ではあったが、腰に刀を差していた。
2人は、寺の壁沿いの道を歩き、その寺へと入って行った。
「それでは太之助、ここで待っていて下さい。」
門を潜った所で、女が少し後ろを向き、男に言った。
「はっ。」
男は軽く頭を下げると、門の脇に腰を下ろした。
「御免下さい。」
女は寺の本堂から中へ、声を掛けた。
丁度、本堂で掃除をしていた僧が、その声を聞き振り向いた。
「はい、何か御用でしょうか?」
その僧は目を閉じたままだった。
「わたくし、ある方にお仕えしています、沙羅と申します。
今日は、お願いしたい事があり、伺わせて頂きました。」
沙羅は丁寧に言うと、僧に頭を下げた。
「そうですか。
只今、和尚様は出かけておりまして、後で御用件を伝えておきます。
さっ、どうぞ、中へお入りください。」
僧は、目は見えていないものの、寺に慣れているらしく、テキパキと動くと、座布団を出した。
「ありがとうございます。」
沙羅はそう言って、本堂に入り、用意された座布団に座った。
僧はその向かいに座ると、沙羅の方を見ながらほほ笑んだ。
「それで、どういった御用でしょうか?」
「実は、用と言いますのは、あなたにお願いしたいのです。」
「えっ、わたくしにですか?」
「はい。
わたしが仕えております主人の為に、琵琶を演奏して頂きたいのです。」
そう言うと沙羅は、ジッと僧を見た。
「そうですか、その様なことでしたら。
それで、いつ伺えばよろしいでしょうか?」
僧が笑顔で聞いた。
「今日から7日間、丑の刻にお願いしたいのです。」
「えっ、丑の刻にですか?
7日間というのは良いのですが、また何故、丑の刻など、遅い時間が良いのですか?」
僧は少し顔を曇らせながら聞いた。
「実は、主人は病を患っていまして、殆どの時間、寝なければならないのです。
丑の刻であれば、起きて居られますので、その時にお願いしたいのです。」
沙羅は、ジッと僧を見ながら、真剣な顔で言った。
僧には、沙羅の表情は解らなかったが、その雰囲気を察した。
「解りました、それでは、丑の刻に伺います。
それで、どちらへ伺えば良いでしょうか?」
僧は笑顔を浮かべながら聞いた。
「丑の刻になりましたら、こちらまでお迎えに来ますので、寺の門の所で、待って居て下さい。」
「そうですか、解りました。」
僧が笑顔で言った。
「あと、もう一つお願いがあるのです。」
「はい、何でしょうか?」
「主人は、病の事を他の者に知られたく無いと申しておりまして、この事はご内密にして頂きたいのです。
たとえ、お寺の和尚様であっても。」
「解りました。。。
それでは、今夜、丑の刻にお待ちしております。」
僧は両手を着き、丁寧にお辞儀をした。
「それでは、よろしくお願いします。」
沙羅も丁寧に言うと、腰を曲げお辞儀をした。
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