帰り道の青春
しーちきんサラダ
第1話
「帰り道の青春」と聞いてあなたは何を思い浮かべるだろうか?
友達とカフェでおしゃべりしたり、カラオケに行ったり、好きな人と一緒に帰ったり、たわいもない会話をしたり.......といった内容を思い浮かべるだろう。
今、私は「青春」している。
イケメンを追いかけている。
自転車のペダルを思いっきり漕いで。
私は不審者や、ストーカーなんかじゃない。
ただ、帰宅しているだけ。
さかのぼること、約3分前。
私は交差点で、信号待ちをしていた。そこに先に信号待ちをしていた他校の男子生徒が数人いた。今週はほとんどの学校がテスト期間だから、学校が午前中で終わった人が多いのだろう。
早く信号変わらないかなと思いつつ、彼らをちらりと見ながら、友達と一緒に登下校できるなんていいなと思った。
その時、私は気づいた。男子生徒の中の一人がイケメンだということを。
信号が青になり横断歩道を渡った後、イケメンは他の男子生徒に別れを告げ、私が帰宅する方向に自転車を走らせた。
私は彼がどこに住んでいるのか気になって、自分の帰路を進みつつ、せめて彼が曲がる場所だけでも見たいなと思った。
彼の自転車は意外と速く、全力で自転車を漕がないと見失ってしまいそうになる。
だが、私の帰り道はほぼ直線。今の時間帯は車の交通量や人通りも少ないため、駆け抜けることが可能だった。
彼が一つ目の曲がり角に近づいた。
ここら辺の住宅街については私はよく知らない。だから、ここで曲がってほしくないなと思っていた。
そして、彼は自転車のスピードを緩めることなく真っ直ぐ進んでいった。
私も彼を追いかけるように、自転車のスピードを上げ、帰り道を進んで行く。
ここからは少しの間、視界を遮る建物などはほとんどないし、車が通ることはないから思いっきりスピードを出すことができる。
彼はスピードをどんどん上げていき、私との距離がどんどん大きくなっているような気がする。
私はなんとか彼を見失わないように、今まで以上にペダルを漕ぐ。
だんだん距離が縮んでいったが、私の持久力がないからかスピードが落ちてしまい、結局距離が空いてしまった。
とうとう彼を交差点で見失ってしまった。私は少し立ち止まって、左右を見渡してみたが、彼はどこにも見当たらない。
そんなことをしていると、彼と同じ制服の中学のころの同級生が私を追い抜かして行った。
ずっとここにいても仕方ないからと思い、私は再び帰路へと自転車を進めた。
彼が着ていた制服の高校ってどこだっけっと思いながら、少し重くなったペダルを回す。
さっき私を追い抜かして行ったのは、同級生だったけど、イケメンの彼は同級生に居た覚えはない。だから、先輩かもしれない。
交差点の横断歩道を渡り、次の信号を待つ。
んっ?イケメンじゃん!!
そこには彼がいて私と同じく横断歩道を渡るために信号を待っていた。
もしかしたら、家が近いかもしれないなと思いながら、横目で彼を見ていた。
さぁ、信号が青になり私たちは走り出した。
彼の自転車が、私を追い越し右へ曲がった。
私も彼に続いて右へ曲がり、家へと進む。
どこで曲がるのかなと思いながら、私は道を真っ直ぐ進んでいく。
しかし、いつまで経っても彼は道を曲がらない。
とうとう、彼は私の家のすぐ近くまで進み、そのまま直進せず、私が最後に曲がる場所を曲がって行った。
疑問に思った。
近所に高校生の先輩なんて居たかなと。
彼が曲がってからだいぶ遅れて、私も道を曲がる。
自転車を家の横に止め、鍵を外す。
その時家の中から音が聞こえた気がした。
そんな訳ないだろうと思い。
玄関の鍵を開け、扉を開ける。
玄関に入ると、2階のドンと部屋のドアを閉める音がした。
まさか……。
私の予想が合っていれば、いやあっているに違いない。
きっと10秒後に今日のリアクションがくる。
5、4、3、2、1……
「シャァ!」
その声を聞いた瞬間、私は手で顔を覆った。
恥ずかしいという気持ちがどんどんこみ上げてくる。
ようやく気づいた。
私、兄ちゃんのこと追いかけてたんだ。
兄ちゃんとは高校が違うから全然家を出る時間も違うし、帰ってきたらさっきみたいにすぐ部屋に入り、こもってしまう。
ご飯も一緒に食べないし、言葉を交わすこともほとんどないから、顔なんて気にして見ていなかった。
それにしても、自分の兄をイケメンだと思って追いかけてなんて……
恥ずかしい気持ちが少しづつ薄くなっていき、とうとう1人で笑ってしまった。
自分はなんて馬鹿なことをしていたのだろう。
まさか、兄ちゃんを追いかけてたなんて……
そう思うと、余計笑いが止まらなくなる。
こんなに自分のことで笑ったのはいつぶりだろうか。
とにかく、私は笑い続けた。
そして、私がイケメンに釣られないようにしようと決意したのは、その3日後だった。
帰り道の青春 しーちきんサラダ @shionom
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