ハコ入り少女 Girls,in the Box
三門ミズキ
0.LIVE
ハコの中にはあらゆる想いが渦巻いている。
幸福、絶望、失望、愛情、苦悩、後悔。そこに立っている人の数だけ、その場所には幾重にも連なる感情が詰め込まれていた。喜びもあれば悲しみもあり、嬉しさもあれば嘆きもある。そんな悲喜交々とした感情の全てを吐き出すように、私は叫んだ。私は喚いた。私は祈った。
赤と青、それに黄色、白。断続的に緑、紫、橙へと移りゆくステージ上の明かり。色とりどりの彩がコントラストを変えながら天井のミラーに乱反射してフロアを照らしていた。
ステージ全体を照らす発熱電球は私たちを燃やすように熱気を放つ。サイドに設置された大型のスピーカーからは私たちの生み出すシンフォニーが刻まれる。スモークは私の視界を奪い、何もかもを覆い隠す。ただ青白いスポットライトだけが私を照らしていた。人込みの中で、誰も知らない音が生まれる。
歪んだギターの音が掻き鳴る。ベースのうねりが脳を揺さぶる。ドラムの振動が心臓まで響く。その中心で私は立っていた。
ハコの中には、私たちが居た。
私たちは間違いなくここに生きていた。
四人は本当の意味で一体となっていた。それは誰一人が欠けてもこの音が生まれることはない奇跡をも意味していた。
バンドと言う言葉は「結び」を意味している。私たちは音楽というものを通して繋がり、そして今この瞬間、この四人は音楽のためだけに存在していた。
スモークで燻ぶる暗闇の中、私たちは互いの存在を確かめ合うように音を響かせ、今ここに存在することを再確認し合った。
そして――いつかハコの中を照らす希望となれるように、私は歌い続けた。
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