第27話 四天王ザリガン
クライブ視点。
僕は巨大なザリガニを見て驚きを隠せないでいた。
「四天王ザリガンがなぜここにいる」
あれはだだのザリガニではない。誰彼かまわず、巨大なハサミで相手の首を狩り取る残虐性をもった四天王だ。たとえ相手が子供だろうが決して逃がさない。ザリガンが通った道には首のない遺体で埋め尽くされたという伝説があった。数多くの街を滅ぼした最恐最悪の四天王だ。
そのハサミは鋼鉄をも切り裂き、岩石だろうが大木だろうが、そのハサミに挟まれたら最後、振りほどくことさえできない、そして砕かれる。さらに、口から吐き出されるシャボンブレス。射程も広範囲で厄介だ。それに触れた者は、強烈な酸で身体が焼きただれて、死に体になってしまう。
それにあの少女は、タロスを襲った闇の勢力の人間ではないのだろうか。タロスが言っていた容姿と一致している。前髪を隠した黒い髪に黒いローブ、まさか、今まで出現した四天王は彼女が召喚し、連れてきたのではないだろうか。だが、様子がおかしい。
ここでザリガンを野放しにすれば被害は計り知れない。このままだと近隣の港町や村が襲われるだろう。ハサミだけなら、まだしも、シャボンブレスがある。
「わ、わたしも加勢します」
「アリスティア様だめです」
「で、ですが」
「それ以上進むとシャボンブレスの範囲です。僕達が加勢すると使用される危険性があります」
僕はアリスティア様の行く手をさえぎった。これ以上進むとシャボンブレスの範囲になってしまう。あれを食らえば僕たちは即死だ。僕のスキルで防ぐことは可能だが今はアリスティア様がいる。巻き込む可能性がある。
どうする。ここからだと、イフリートの方が近い。だが、援軍を呼ぶには遠すぎる、たとえ兵を呼んでも、まともに戦うことのできる兵士がいるのだろうか、被害が甚大になる可能性が高い。今は聖女に選ばれたエリザに任せるしかない。
エリザに加勢したいが、僕はエイリアス王子に頼まれたことを、まずはアリスティア様を守ることを考えなければならない。ザリガンは見た目と違い賢い。シャボンブレスの範囲に入った瞬間、エリザより真っ先にアリスティア様を狙って、けしかけにくるだろう。
魔王の復活を阻止するためにも、そう運命の火を消させないためにも、守りの固いシルフィードでアリスティア様を保護する予定だったのだが、予想外だった。このルートは極秘だったはずだ。なぜ四天王がタイミングよくここに現れたのだ。他にも罠が仕掛けられているかもしれない。これは一度イフリートに引き返すべきだ。魔族側も本気になってきている。雑兵ではなく、四天王まで投入し、アリスティア様を狙ってきている。
焦ってきているのだろう。数万の兵に匹敵する四天王を瞬殺する聖女がいるなど魔族側も予想外だったはずだ。
それに彼女は相変わらずだな。僕が彼女を制止させる前に、あのザリガンを見た瞬間、彼女は何も言わず、飛び出していった。
あの四天王に迷いもなく……。ただ彼女はあの少女を助けるために戦っているのだろう。
相手が闇の勢力で属する疑いのある人物ととは知らずに……、僕とは考え方が違うのだろう。まさに聖女の心をもった、いや、どうなのだろうな。
先ほどの馬車で行った彼女の言動を僕は思い出した。そ、そうだな、戦いに集中しなければ……。
エリザはゲイボルグでザリガンのハサミを振り払い、ザリガンが最も得意とする接近戦で互角に撃ち合っている。流石だと言える。エリザは聖女に選ばれただけではない。神器にも選ばれたのだ。通常の神器は球状の形をしている。彼女は槍を得意としているのだろう。それで神器はエリザのために槍の形状をとっている。もし剣聖のエストが選ばれていたらエクスカリバー、剣の形状となっていただろう。
鋼鉄をも切り裂くハサミを何事もなく、ゲイボルグで打ち払うエリザ。あの剣聖のエストを軽くあしらっただけはある。彼女ならザリガンをどうにかしてくれるだろう。
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