第11話 オークキング

 ダニアの森で『オークキング』が出現したとの報告があった。何者かの召喚魔術による犯行ではないかと光の聖痕の継承者タロスは疑っている。そのタロスだが森を調査中に何者かによって背後から刺され重傷を負うことになった。意識がなくなる寸前に彼は何者かの呟く言葉を耳にした。「なんなの、あんた、バグ、じゃま」と、私は光の勢力に恨みをもつ闇の勢力の犯行ではないかと疑っている。


 そして再度、森の調査に向かった火の聖痕の継承者アリスティアも危うく命を落とすところだったという、同行していた戦闘に特化したエリート衛兵たちもあっけなくオークキングに倒されたそうだ。逃走するにも結界のようなものに阻まれて森から脱出することすらできなかったという。


「S級討伐対象のオークキングが、さらに強化されたものがダニアの森にでたということは本当なのか」


 エイリアス王子はその報告を受け、騎士団長に問いかけた。


「はい、アリスティア様とお付きの兵の者がそういっておられます。調査した結果、間違いありません」


 妹は母が亡くなったことで、火の聖痕を継承したばかりだ。まさか聖痕保持者が狙われているのか。それとも……


 エイリアスは顔を曇らせた。


「まさか魔族と闇の勢力がしかけてきているのか」


 聖女が現れていないこの状況で一刻の猶予もない状態だ。まだ聖女候補は二人しか見つかっていない。

 

 赤の聖女候補のアリスティアと銀の聖女候補ではないかと噂されている少女だ。ギルドカードに表示されたことと、水晶球の判定により彼女が聖女候補であることが【確定】した。


 諜報員の話によれば、辺境伯領での彼女は無欲の聖女とも言われているそうだ。貴族でありながら身に着けている物は平民より粗末なもので、彼女の義弟エストがいくら、難癖をつけて貴金属やドレスを渡しても、彼女はそれを売り払い教会や病院、孤児院に施しを与え続けたと言う。両親に虐待されその日の食べ物さえ困っているはずなのにだ。


 困っている者を見捨てない、そんな性格をしているらしい。飢饉で食糧不足のときでさえ、自ら単独で死の山と呼ばれる難易度S級の狩場に向かい、その素材や肉を無償で街や村に配ったという。すでに聖女に覚醒してるのではないかと噂されている。


 また死の山の瘴気が濃くなり、異変に気付いた教会がタロスに調査を向かわせることにしたのだが……


 山頂付近で四天王の死骸とも思われる灰が残されていたそうだ。このまま自分が四天王と相対していたら自分の命はなかったものだとタロスは言う。調査の結果、噂の彼女が四天王を倒したのではないかとタロスは確信めいた言葉を残している。


 今日をもって我が国イフリートは彼女を聖女候補として認める。


 またアリスティアを助けた者も銀色の髪をもつ少女だったと言う。颯爽と現れて瞬殺、槍を使ってオークキングの変異種を一撃の元で倒したという。普通ではありえない話だ。オークキングはS級のパーティですら勝てるかどうかすら分からない。それが今回は変異種だった。火の聖痕のスキルを全て無効化にされてしまったことで、アリスティアの勝利は絶望的だったそうだ。あのまま助けがなければ確実に殺されていただろう。


「その少女の行方はわかったのか?」


「いえ、アリスティア様しか目撃者がいませんので、なんとも」


 変異種をいともたやすく葬り去る少女は何者なのだ。それになぜ、少女は名乗らず、消えるように立ち去ったのだ。一国の姫を助けたのだ。褒賞はかなりのものになるはずだろうに、何かが起こり始めているというのか。具体的な対策を考えねば、とエイリアスは目を閉じ考え込んだ。

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