第9話 初めての依頼クエスト

「エリザちゃん、助かったわ、ありがとね」


「ダニアさん、こちらこそ、お野菜ありがとうございます」


「また、お願いね」


「はい、それではまた明日」


 私は郊外にある里に赴いた。そこで私は雑用依頼を受けた。依頼内容は野菜の収穫などを手伝うことだった。それも終了し、ダニアさんから依頼書にサインをもらった。


 ダニアさんの夫と息子は隣国へ出稼ぎに出ているらしく、しばらく帰ってこないそうだ。最近雇っていたアルバイトの子も怪我を理由に辞めてしまった。


 野菜が数多く実っているため、一人で作業するのは厳しいらしく、思いきってギルドに依頼を出したそうだ。


 冒険者は魔物の討伐や採取がメインだから、こういった雑用を受ける冒険者はなかなかこないそうだ。そのため、掲示板の隅に隠されていたかのようにこの依頼が放置されていた。


 なぜ受けたのかって、それはね。あの山ごもりのスローライフが【聖女候補への道】につながっていたから、私は出来るだけ目立たないように小さな依頼をコツコツすることにしたんだよ。


 次の依頼先に向かおうとした時、畑の収穫をしていた、お爺さんが腰の痛みでつらそうにしながら、作業を行っていた。心配になった私は、お爺さんに声をかけた。


「お爺さん、大丈夫ですか?」


「いやはや、嬢ちゃん、腰がちょっとのう」


 私は腕時計を見る。まだ次の依頼先まで時間はありそう。わたしはお爺さんに話しかけた。


「わたしも、少しの時間でしたら、お手伝いしますよ、それに『トータルヒール』!!」


「おおおお、なんと、腰の痛みがなくなっておる」


「よかったですね、ではわたしも手伝いますね」


「おじょうちゃんは、まるで本物の聖女様じゃのう、ありがとう、ありがとう」


「あははは、そんなわけないじゃないですか、わたしはただのEランク冒険者ですから」


 こうやって周りの人が困っているのを助けて、人に感謝されるのはすごく気持ちがいい。たしかに雑用クエストは報酬と評価がわりにあわないけど、それでも冒険者になってすごく良かったと思う。


 なぜか、郊外からの帰り道、ナニかと困ってる人達が私の前に大勢現れた。さすがに助けなくては危険なものもあって、そのせいで、次の依頼先に走っていくことになった。


「急がないと」


 私は急いで走っていく。郊外からダニアの森へ。


 ダニアの森から少し離れた空き地に建てられた屋台テントに辿り着く。そこでお弁当屋さんの店主が私を待っていた。彼は今回の依頼主だった。


「おお、来てくれたか、まぁ、今は森が閉鎖中だから商売あがったりだけどな」


 私は畑の手伝いをしてから、お弁当屋さんの依頼を受けることにした。


 現在森は閉鎖中だけど、ダニアの森は低ランクの薬草や鉱物が手に入る。またモンスターが弱いため、低ランク冒険者の収入源になっていた。夜になると敵の強さと素材DROPのレア率があがるせいか、この時間に森に行く冒険者が多いはずだけど、今は全く来ない。この森ではなく、この先にあるダンジョンに行く人が携帯用の乾燥食を求めて購入するぐらいだった。


 この売り子の依頼も冒険者にはあまり人気がないものだと思う。だけどね。わたしは、まかない食のお弁当のために選んだんだよ。寮ではモーニングサービス以外はなかった。夜は何もつかなくて、わたし貧乏だから。あの両親のことだから仕送りなんてしないしね。


 この二つの依頼で生活費は十分稼げてるし、あとは少しづつ貯金して学園を卒業したら、この国を出て旅に出よう。平凡な生活をしていれば、きっと私は聖女にならないはず。


 わたしは店主から渡されたエプロンをつけた。


 そして、時間が過ぎていく。


「こちらの唐揚げ弁当は100Gになります、お買い上げありがとうございました」


「あ、ありがと?」


 私は売り子としてお客様に対応していく。森が閉鎖されているにもかかわらず結構なお客さんが来ていた。


「嬢ちゃんは初めてにしては、ハキハキしてんな、この仕事は初めてじゃないのか」


 前世でこういった、アルバイトをしたことがあるから慣れてるしね。


「まぁ、いろいろとしましたので」


 私は店主さんに曖昧に答える。この世界にはアルバイトなんてないから、家のお手伝いなんて言えるはずがない。あの両親ですよ?


「そうか、嬢ちゃんがよければ、今月だけじゃなく、これからも続けてくれないか、報酬は2倍にしとくぜ」


 店主さんは私のことを気に入ってくれたみたいだった。願ってもないことかも、でも、ギルドに話をつけないとだめだから、即断はできないけどね。


「ほ、本当ですか、でも依頼中ですから」


「ああ、そうだったな、ギルドの方でも話をつけとくから、一月が過ぎるまでには頼むな」


「はい、ありがとうございます」


 そして、あっという間に時間が過ぎて、勤務時間が終了した。


「今日は嬢ちゃんはここまでだ。明日も頼むぜ。そういえば嬢ちゃん、武器はもっていないのか?」


「え、武器ですか?」


 私は寮に戻って学生服からピンクのトレシャツに着替えていた。これって一応鎧になるのかな、そういえば武器は持っていないね。


 すると店主さんはため息をついて、つっこみをいれるような顔をして話しかけてきた。


「おいおい、嬢ちゃんみたいな別嬪べっぴんさんが、それだと襲ってくれってもんだろう、何か使えるものはあるか?」


 襲うキャラなら性なる王子様が確かにいるね。


「一応、槍なら嗜む程度に」


 すると店主さんはテントの奥へ行き、大きな箱から鉄の槍を取り出した。それを私に手渡してきた。私は両手で受け取る。


「ほら、護身用に使いな。冒険者の中にも物騒な連中がいるからな、帰り道にモンスターに出くわす危険もある。気をつけて帰るんだぞ」


「あ、ありがとうございます」


 このお弁当屋の店主さんはイケメンすぎる、筋肉質でスキンヘッドをした口ひげおじさん、私の友好度あがってるよ? 


 店主さんに依頼達成のサインをもらい、礼を言って、私はここを後にした。

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