グリーン企業

烏川 ハル

第1話

   

 大企業ならば、全部門合同で新入社員の研修が行われるのだろうか。

 俺が入ったのは小さな会社なので、いきなり所属部署へ送り込まれる。仕事の内容も会社のマナーも直接、先輩社員から教わる形式だった。

 合同研修がないというのは、大学で言えば、一般教養の授業がなく、最初から専門過程で学べるということ。俺はそう理解して、むしろ好ましいと思っていた。

 出社初日も前途洋々たる気分だったが……。

 その日のうちに「騙された! もしかしたら、ここはブラック企業なんじゃないか?」という気分になってしまう。


 俺がこの会社を選んだ理由の一つは、就職活動中の印象が良かったこと。

 入社面接の担当官たちは皆、穏やかで優しそうな表情であり、一昔前に流行はやったという圧迫面接とは程遠ほどとおい雰囲気だった。「こんな社員ばかりならば、とてもアットホームな職場に違いない」と感じるくらいだった。


 ところが、いざ社員としてビルに足を踏み入れた途端、ギスギスした空気が伝わってくる。

 一階のロビーを歩く人々だけでなく、俺が配属された部署も、眉間にしわを寄せている者ばかり。

 部屋の扉を開けて、まず目にしたのは、

「何をやってるのかね、田中君!」

「申し訳ありません、課長」

 奥の席に座っている上司が、彼より年上の部下を叱責している光景だった。

   

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