6.目指すべき場所

「まずはお互いのスキルについて話そう」

「そうですね」


まず俺達はお互いのスキルについて話し始めることにした。


「俺のスキルは『マゾイズム』、ダメージを受けると自身を強化する、効力は半日ほど続く。ただし人間、それも異性からのダメージではないと発動しない」

「とんだドM野郎スキルですね」


……なんかこの子口悪くない?

天然だったり、毒舌だったりいまいちキャラが掴めないなぁ……

物思いにふけっているとエリスが急に手を挙げる。


「すみません。聞きたいことが一つあります‼」

「はいどうぞ」

「アルフさんって本当の所はMなんですか?」


いきなり人の性的嗜好を探って来やがった。


「え……いや俺はビジネスMであって本当にMじゃないよ」

「そうですよね! アルフさんはSっぽいですもんね」


俺の返答を聞いてエリスは嬉しそうに何度も頷く。

いや、Sでもないからね!


「じゃあ次はエリスどうぞ」

「私のスキルは『加虐サディスティック魔術師マジシャン』です。ダメージを与えれば与えるほど強くなります」

「なんで無駄にカッコイイ名前なんだろうな?」


サディスティックの意味を知らない人からしたら何かカッコイイよな。

まあ真実はただのドS野郎スキルだと思うが。


「聞いた感じ職業スキルっぽいよな」

「たぶんそうだと思います。前例はないみたいですが……」


まあそうだよな前例あったら話題になりそうだもんな。

俺の『マゾイズム』もそうだが。


「そして名前の通り魔術を使えます」

「ほうほう」


魔術を使えるのは戦闘において非常にありがたいが……

だが変態スキルだ、内容を聞くのが怖いな……


「ちなみにどんな魔術が使えるんだ?」

「まず杖で相手を攻撃する『スパンキング・ロッド』です」


ああ、闇兎ダークラビットにしていた打撃攻撃か……ん?


「まて、それは魔術なのか?」

「はい。魔術です」

「いや、魔術じゃないだろ、それは近接攻撃だ」

「いいえ。魔術です」

「いや、だから……」

です」


やだ怖い。

エリスの迫力に少し怯んでしまった。その迫力はぜひ魔物に向けてもらいたいものだが……


「あとは相手の視覚を奪う『目隠遊戯ブラインド』」


お、ちゃんと魔術っぽいのが出てきたぞ。中々使えそうだな。


「そして相手の身動きを封じる『手錠ロック拘束バインド』です」

「結構使えそうな魔術じゃないか」

「そうなんですよね……そうなんですけど……」


打撃ではない魔術っぽい技に感動しているとエリスが何かつぶやいている。


「……かないんです……」

「なんだって?」

「いや、その……人間にしか魔術が効かないんです……」

「…………え?」


人間にしか効かないって?

はて? にんげんなんて魔物いたっけな?

いないいない、人間は人間だ。

人間にしか魔術が効かないなんて致命的過ぎないか? 対人戦するなら冒険者じゃなく騎士団を目指すべきだったのでは? 


「ん? ……まてよ、あの時視界が真っ暗になったのって……」

「うう……すみません……やっぱりダメでしたか……」


お前の所為だったんかーい!

そうだよなー、闇兎ダークラビットがそんなことするわけないもんなー


「まあ過ぎたことはいいよ。大事なのはこれからだからな」

「なんかカッコイイです!」


エリスが目をキラキラさせている。

なんか自分で言って少し恥ずかしくなって来たからこっちを見ないでほしい。

まだ俺には話すことがある。笑われるかもしれない、でも大事な話だ。


「なあ、エリス。これからパーティーを組むんだ。だからスキル以外にも聞いて欲しい話がある」

「どうしたんですか? 急に真面目な顔をして? スリーサイズでも公表するつもりですか。興味ないですよ」

「スリーサイズじゃないんだ」

「冷静に受け流された……」


エリスが何故かショックを受けているが今はどうでもいい。

俺は話しを続ける。


「エリス。俺は勇者を目指している」

「勇者を……ですか? それはどうして?」


疑問にも思うだろうな。こんな変なスキルを持ったやつが勇者だなんて。

でも俺に迷いはない。そう決めたから。


「恩人を探しているんだ」

「恩人を?」


そう俺の命の恩人であり、目指すべき人。


「昔魔物から命を救われたんだ、その人の名前は……アリナ・アセント」

「え? アリナ・アセントって……まさか2年という史上最速でSランク冒険者まで上り詰めた【神速しんそく姫騎士ひめきし】のことですか⁉」


突然の有名人の名前にエリスは驚いている。


「ああ……10人目Sランク冒険者であり10番目の勇者。2年前から消息不明になっている」

「ええ、知っています」


勇者とはギルドの最高戦力でもあり、また人類の象徴といってもいい。

長い歴史でたった10人しかいないんだ、それだけの強さを持っている。

その勇者が消息不明になった。当時は世界中で大きなニュースになった。

知っていても当然か。


「ここより遥か北にある最終拠点フレーベルグに存在するゲート、勇者しか入ることが許されていないS級魔領域【魔王まおう宮殿きゅうでん】」


アリナさんは2年前、魔王まおう宮殿きゅうでんのクエストに向かい消息不明になったという。

あの人が魔物に倒されるなんて想像出来ない。それくらいの強さを持っていた。

それに約束したからな……共に戦うと。



「そこにアリナさんを探しに行く、だから俺は……」


俺は真っ直ぐエリスを見つめて宣言する。


「俺はSランク冒険者、11番目の勇者になる」

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