第51話 海王の思い
神殿の防衛から2日後、ポセイドンは、漸く目覚めた。
「ポセイドン様、お気付きになられましたか?」セイレーンのティティスが話しかける。
「メルティアはどうした。」
「・・・あの子は、厳しい状態です。私は治癒魔法は使えませんし、身体中めちゃくちゃです。」
「そうか・・・ならば、私が治しに行かねばならん。」
「ポセイドン様、まだ動くのは無理です。」
「いや、あいつは自分の治癒は行わずに私だけを回復させて、敵と一人で戦ったのだ。この位の事はして当然だ。」
ポセイドンは、メルティアの元に行き愕然とした。何処から治していいか分からない程酷い状況だった。
しかも、もう生存不可能と考えたティティスは、毛布を掛けただけでなんの処置もしていなかった。
「馬鹿者め!我が伴侶となって貰う者に何という粗末な対応をする!」ティティスを怒鳴りつける。
「も、申し訳ございません。」ティティスは、平伏して平謝りだ。
ポセイドンは、ズタボロのメルティアを抱き抱えると、自室のベッドにはこび寝かせた。ポセイドンの神聖力を込めた最大級の治癒スキルが行使された。
表面的な傷は治癒したが、神器による傷がまた悪化してしまい、これが全くなおらなかった。
更に翌日、メルティアはやっと目を覚ますが、酷い状態であった。「あっ、くっ、うううぅ」痛みでまともに話す事も出来なかった。
「メル、何故逃げてくれなかったのだ・・・」
「あぁ、セイ・・・生きていてくれたんですね。よかったぁ・・・」ポセイドンは、何も言わずに、メルティアにキスをした。
「ダメですよ、こんな汚い者にキスなんかしたら・・・」へらっと力なく微笑む。
ポセイドンは、メルティアを抱きしめた。メルティアの胸に顔を埋めて涙を溜めていた。
「すまん、私がついていながら守ってやれなかった。」メルティアは、何も言わずにポセイドンの頭を撫でた。
「メル、私と一緒になってくれないか?」
「?・・・私は、セイの希望でここにいるんですよ、貴方が帰れと言わない限りは、ここにいますよ。」
「でも、私は天界から、メルを守れなかった・・・」
「元々、天界とは戦うつもりでしたから、気になさらなくて良いのです。それよりも天界にセイみたいに理解のある素敵な神様がいた事が嬉しいです。」
「ありがとう・・・まず私は自分の出来ることをしよう。」ポセイドンは、ゼウスの元に昇っていった。
ゼウスの元では、ポセイドンも含めてメルティアの処遇に対して検討がなされていた。
「まさか、あれ程の力を持って居るとは思わなかった。確かにあの者を倒さなければならないのなら、相当な被害が出るだろう。」
「いくつか手段が有ると思いますが、地上浄化を中止してメルティアを天界に幽閉するか?ポセイドンにメルティアを始末させるか?当たりでしょうか?」
「私が居る限りメルティアは天に仇なす事は無いでしょう。私に全て一任下されば良きに計らいましょう。」ポセイドンは、しれっと発言する。
「アレスとアポロンの件は如何するのだ?」
「如何もしません。ならば、彼らに私が重症を負わされた件に関しては、不問なのですか?」ポセイドンは、問いただす。
「ポセイドン・・・お前は何処も怪我してないではないか!」
「これは、メルティアが聖女の力を使い治癒してくれた為です。本来ならアレスより重症でしたから。」
末席にいたハデスからから声が上がった。
「もう手は打ちましてございます。すでに、我が黒き魔天使達が、メルティア嬢を手にかけて居るはずですよ。
「な、なんだと‼︎」
ポセイドンは、戻ろうとするがヘパイストスとプロメテウスに止められる。
「解ってるだろう、死者の魂が必要だったものを、あやつが統べる地上は、戦争が無く、魂が集まらないのだ。故に私が暗殺者を送ったのだ。」ハデスやタナトスにとっては尤もな理由なのだ。
「きやゃゃゃゃっ、いやあぁぁぁ」
3柱の黒い天使がメルティアを押さえ付けて、神器であるボルセルという短剣でメッタ突きにしていた。
メルティアのホーリーセイバーは、3柱の天使を真っ二つにしたが、メルティアも回復をしない致命傷を負ってしまった。
程なく、神達を振り切って戻ってきたポセイドンは、泣いた・・・。メルティアは、もう出血で意識が無く、胸は神器で何箇所も刺され抉られ、未だに血が流れ出していた。
「すっ、すまない・・・私がここを離れたばかりに・・・」ポセイドンは、血塗れのメルティアを抱きしめた。
「ここにいたら、寧ろ危険だ、アンブロシアへ送って行こう・・・」ポセイドンは、メルティアを守る為に神殿を捨てる事になった。
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